4,成人患者のQOL

(1)QOLとは
 Qaulity of Life(QOLと略)は,一般的に「生活の質」「人生の質」,「生命の質」と訳されています.医療面では,ガン患者のターミナルケアに始まったQOLの考え方が,現在では長期療養が必要な慢性疾患のケアへ利用されています.筋ジスの患者さんを受け入れている国立療養所においても入院患者さんや在宅患者さんのQOL,つまり生活,人生を豊かにするために各職種の人々の努力が続けられています.


(2)筋ジストロフィーとQOL
 筋ジス患者さんのQOLと言っても年齢,病型,障害度,社会環境の違い,患者さん自身の意識や意欲,周囲の人々の協力関係等によりその状況は異なってきます.
 また,筋ジスが進行性の疾患であるために問題はより一層複雑なものになってしまいます.時として,病状の進行に伴う身体的変化や機能低下に悩んだり,「病気だから」とか「障害を持っているから」とあきらめてしまったりすることもあります.しかし,その反面「人間らしく生きたい」との願いも持っているのであり,そこにQOLを高めることの重要性がでてくる訳です.そのためには自分の状況を冷静に捉え,筋ジストロフィーと言う疾患や障害を理解し「自分なりの生活」をつくりだすことが重要になってきます.
 最近,疾患(病気)から生じる「障害」というものを@機能・形態障害(Impairment)A能力障害(Disability)B社会的不利(Handicap)の3つの側面に分類し,機能・形態障害に捕らわれず,その人が持っている機能や能力を最大限発揮し生活することが大切であると言われています.また,社会全体も障害者の「完全参加と平等」を目指して啓発活動や行動計画を実践する段階にあります.同時に障害者自身も主体的に社会参加し,それぞれの役割を遂行し義務を果たすことを期待されています.


(3)QOLを構成する項目
 成人患者さんにとってのQOLを構成する重要なこと柄を項目別に分類してみました.項目の中には相互に関係のあるものや,家族・介護者の援助や協力を必要とするものもあります.それぞれの項目を自分自身の生活と照らし合わせてみてください.

  1. 病気の受容
     病気やそれに係わる障害を受容できるかどうかはその患者さんの生活に大きく影響します.また,その過程において病気に対する正しい知識を得ることや家族の心理的援助が患者さんにとっては大きな支えとなります.

  2. 心理的安定
     十分な睡眠や適度の運動は健康のために大切なことです.また,感情,気分をうまくコントロール(処理)する方法を自分なりに見つけ出すことも大切です.家族の方も患者さんの心理状態を的確に把握し援助してあげることも大切です.

  3. 家庭生活の充足

    1. 住まいの充足
       住宅は生活の場であり,また介護の場でもあります,食事,排泄,入浴,余暇活動等様々の場面で患者さんや家族が共に快適に過ごせる空間が必要です.また,患者さんの機能を考慮した生活方法や自助具,福祉機器等の配置を検討することも必要です.

    2. 医療の充足
        医療機関との系統的な関係づくりは,健康管理や治療・訓練のために必要なことであり,急激な症状変化にも適切に対処していただけることにもなります.専門病院,検診に定期的に受診し,身体的状況を把握したり専門スタッフによる助言を受けることも大切です.

    3. 介護の充足
       患者さんの状態を理解し,援助してくれる介護体制は在宅生活の重要なものです.介護者の疲労や病気等が直接患者さんの生活に影響することもあり,特定の介護者への過度な負担がないよう十分配慮し,安心して介護が受けられる状況を作ることが大切です.
  4. 対人関係
     患者さんが社会生活を送る上で,人との接触は重要な要素となります.また,様々な人と交流を持つことは人生の広がりを意味しています.

    1. 家族
       家族には生活や発達のための重大な役割があります.父,母,夫婦,子,兄弟等それぞれの関係を大切にし,よい家族関係をつくりあげて下さい.そのためには,家族の方も過保護にせず一人の人格者として接することや互いの思いやり,信頼関係が必要です.

    2. 介護者
       患者さんと介護者とは単に介護を受ける側,介護する側との関係ではなくお互いを尊重した立場での人間としての付き合いも大切です.介護を通しての心のふれ合いも大切です.

    3. 友人
       夢や悩みを相談できる友人をもつことは重要であり,また,サークル活動や買物,遊びなどの友人関係を大切にして下さい.交信方法も,手紙,電話,ファクシミリ,パソコン通信等それぞれの創意工夫で楽しい友人づくりができるでしょう.

    4. 集団
       職場,地域,協会など集団に所属し活動することは,社会性,協調性,指導性を発揮し,社会的存在を認識できる場でもあります.そこでの人間関係を大切して下さい.

    5. ボランティア
       現在,様々なボランティア活動があります.それぞれのボランティア活動の特性を理解し,自分が必要とするボランティアを活用し社会経験の拡大や交友関係を広ましょう.

    6. 地域
       地域社会とのつながりは,社会との接触の第一歩かも知れません.家族の方も地域と孤立することのないような関係づくり,助け合が必要です.
  5. 役割
     家庭,職場などでのほんの僅かな役割でも,患者さんにとっては大きな存在感を感じられるものです.そのためには自分にできる役割を見つけ出す努力や,家族,職場の仲間の協力も必要になります.

  6. 生活への意欲
     患者さんが持っている能力,特技,趣味を活用して生活することは単調になりがちな生活に変化をもたらし行動範囲を広げてくれます.また,過去や現在の生活を振り返り自分なりの目標を持ち前向きに生活することも大切です.それは介護者にとっても介護の張り合いにつながります. 

  7. 福祉サービスの利用
     福祉制度サービスを積極的に利用することは,経済的な負担を軽減し,家族の介護を支援してくれることはもちろんのこと,患者さん自身の社会参加や人間関係を広げてくれるものです.福祉サービスの利用については,専門の相談員とよく相談することも重要です.

  8. 療養形態
     在宅療養か,入院療養か,の選択ではなく,個々の状況に合わせて選択できるようになっています.それぞれの目的に対し「必要とする時に,必要な期間」病院を活用することも,より充実した在宅生活を送るために必要となります.


 (松本浩幸)

   

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