3.気管切開・閉鎖式人工呼吸器による管理

(1)気管切開とは
 気管切開とは輪状軟骨の下(いわゆる喉仏の下付近)で気管を切開し,気管内にカニューレを入れて換気を行う方法です.死腔(気道やチューブなどガス交換に関与しない部分の体積)が最も小さく換気効率に優れた方法である反面,実施に手術が必要,カニューレが刺激となって痰の分泌が増える,気管が露出するため清潔操作が必要といった不便さがあります.切開部や気道からの出血や気胸も大きな問題です.管理に知識と技術を要し患者さんの生活制限が大きくなるため第一選択として用いられることは少なく,主に前項の体外式人工呼吸,次項の鼻マスクIPPVでうまく管理できなくなった患者さんに行われています.

気管切開の主な長所・短所

(2)閉鎖式人工呼吸器とは
 前項の体外式人工呼吸器が空気を引くことによって肺を膨らませた(陰圧式)のに対し,圧をかけて肺に空気を送り込む(陽圧式)器械です.空気に圧をかけるコンプレッサーと,空気を患者に運ぶための回路からなり,これに加湿器や酸素濃度調節器などが付属します.回路から圧が漏れないようになっているので閉鎖式といいます.


従量式・従圧式の特徴

  従量式 従圧式
換気量 一定 条件により異なる
気道内圧 条件により異なる 設定値を超えることはない
  (上限は設定可能)  
気胸 危険性が高い 危険性は低い

調節呼吸・補助呼吸の特徴

  調節呼吸 補助呼吸
呼吸回数 一定 不定
自発呼吸 無視 吸気に合わせて送気
    吸気が弱いと感知不能
ファイティング 生じやすい 生じにくい


(3)呼吸器の設定
 各個人に合わせて呼吸器の設定がなされます.従量式では換気量(一回に送り込む空気の量),呼吸回数(1分間に空気を送る回数),I:E比(吸気時間=inspiration:Iと呼気時間=expiration:Eの比で大体2.0前後.小さ過ぎると空気が肺にたまり気胸が生じやすく,大き過ぎると呼吸回数が減ってしまう),上限圧設定(気道内圧が設定値に達すると弁を開いて空気を逃がす)を行います.従圧式では流量(1秒間に送り込む空気の量)と最大吸気内圧(気道内圧が設定値に達すると吸気から呼気に変える),I:E比が決められます.更に酸素の必要な人では酸素濃度(FiO2)が,補助呼吸ではトリガー設定(患者さんの吸気を感知する圧の設定:高過ぎると感度が悪く吸気を感知できない,低過ぎると体動など吸気以外でも空気を送り込んでしまう)が,アラームの設定(高圧アラーム・低圧アラームなど)などを行います.呼吸器の設定が患者さんに適しているかどうかは動脈血ガスを調べて行われます.呼吸管理の導入から最適な設定が行われるまでの期間は入院が必要です.


(4)気管切開患者の管理

(松村 剛)

   

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