第13章 航空旅行について

1.航空機旅行をするにあたり
 ここでは筋ジストロフィーの患者さんが航空機旅行をする際,どのような準備をする必要があるかを説明します.
 航空機旅行のための準備(計画段階)
 一番大切なことは具体的な旅行計画をたてる前に主治医によく相談することです.これはぜひとも守っていただきたいと思います.もうチケットも購入した後で相談されますと,対応はなかなか面倒です.場合によっては航空会社の指定した診断書(形式はどの航空会社でも同じです)が必要になることがありますが,この診断書は航空機旅行の1週間以内のものでなくてはなりません.呼吸・循環機能に問題がなければむしろ診断書を出さない方が良いと思います.もちろん車椅子利用などの要望は連絡しておかなければなりません.
 繰り返しになりますが,問題となる呼吸機能異常とはどのような状態でしょうか.睡眠時に人工呼吸を始めている患者さんはすべて該当すると考えて下さい.人工呼吸を始めていなくとも,動脈血ガス分析でPaCO2が50mmHg以上の場合は要注意です.したがって動脈血ガス分析検査はぜひ必要です.

(1)航空機旅行のための準備(旅行の段階)
 国内線の場合はレスバック(アンビューバッグ)を用意します.マスクだと操作しにくいので,短い延長回路をつけてマウスピースで利用できるようにしておきます.どのような状態で使い始めるかを一言でいうのは難しいのですが,とりあえず自覚症状を目安にします.国内線ではそもそも飛行時間が短く,さらに上昇,下降の時間を差し引くと影響は少ないと思われますから,とりあえずレスバックの準備で対応できるでしょう.もしPaCO2が60mmHg近くあるような場合は,当然,人工呼吸器の使用を考えねばなりません.国際線の場合はやはり人工呼吸器使用を考慮すべきでしょう.

(2)できる限り安全にかつ大胆に
 近年,人生の質(QOL)と言うことが盛んに問われるようになってきました.筋ジストロフィーの患者さんもどんどん街へ,社会へと出て行く,大いに結構です.しかし決してQOLと無謀をはき違えないで下さい.人工呼吸療法はじめ,様々な形で在宅医療が盛んになってきています.しかし,そこにはかつて病院内だけで行われていた医療では想像もできない,例えば航空機旅行のような落とし穴が多数存在します.これらの落とし穴をできる限り事前に埋めておくことが,主治医を始めとする筋ジストロフィーの患者さんをささえる人々の義務だと思います.自分で判断せずにまず相談して下さい.

(参考)各航空会社相談窓口
 航空会社への連絡先を記しておきます.まず主治医の先生に相談し,先生から連絡して貰ったらどうでしょうか.
日本航空プライオリティ・ゲスト予約センター TEL:0120-747-707
全日空スカイアシストデスク TEL:0120-029-377
              FAX:0120-029-366
日本エアーシステムレインボーサービス室 TEL:0120-240-283

(主治医の先生のための参考文献)
1.加藤啓一,巌康秀:呼吸不全患者の航空輸送の問題,呼と循 42:349-352,1994
2.加藤啓一:呼吸不全患者の航空機搬送の要点,救急医学20:225-227,1996
3.内浦玉堂,北條敏夫,副島道正ほか:航空環境と注意すべき病態,宇宙航空環境医学 33:21-24,1996
4.安藤秀樹:慢性呼吸不全と航空機旅行,呼吸 16:726-735,1997
5.多田羅勝義,里村茂子:呼吸不全を伴う筋ジストロフィー患者の航空機旅行中の低酸素血症,医療:印刷中
6.Cottrell JJ:Altitude exposures during aircraft flight  Fling higher,Chest 93:81-84,1988
7.Schwartz JS,Bencowitz HZ,Moser KM:Airtravel hypoxemia with chronic obstructive pulmonary disease,Ann Intern Med 100:473-477,1984
8.Dillard TA,Berg BW,Rajagopal KR,et al:Hypoxemia during air travel in patients with chronic obstructive pulmonary disease,Ann Intern Med 111:362-367,1989
9.Harinck E,Hutter PA,Hoorntje TM,et al:Air travel and adults with cyanotic congenital heart disease,Circulation 93:272-276,1996
10.Gong HJ,Tashkin DP,Lee EY,et al:Hypoxia-altitude simulation test, Am Rev Respir Dis 130:980-986,1984
11.安藤秀樹:ベンチレータをつけての航空機旅行,ノーマライゼーション44-46,1996                              (多田羅勝義)  

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