◆ TITANIC REFERENCE ◆


−Irish Fairy Tale−



映画「TITANIC」の中で、3rd class Irish Motherが、救命ボ−トに乗ることを諦めて、自分の船室に戻り、子供達に童話を聞かせながら寝かしつける場面・・・。

もの悲しい「主よ、みもとに近づかん」のメロディと共に胸が締め付けられるシ−ンです。

そのときに話して聞かせた「ティアナン・オ−クの童話」をご紹介します。
きむさんに全面協力いただきました。

日本語字幕では「ティアナン・オ−ク」でしたが、「Tir-na-n-Og(ティール・ナ・ヌォーグ)」というのが一般的のようです。





アイルランドの伝説には、「ティール・ナ・ヌォーグ」という国がある。
西方の海の彼方の地で、古代ケルトの神々、トゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ)族が、現在のアイルランドの祖と言われるミレー族との戦いに破れた際に退却した場所の1つといわれ、死の訪れを受けない、魂や肉体の美の滅びることのない「常若の国」である。
木はおしなべてバラ色の花をつけ、黄金の果実をみのらす。
つまり尽きせぬ歓楽と法悦とに満たされた国である。

「常若の国(ティル・ナ・ノグ)」の他にも「楽しき郷(マグ・メル)」や「喜びケ原(メグ・メル)」「至福の島(ハイ・ブラゼル)」と呼ばれる楽園があるが、彼らはそこに、それぞれ王宮を建て、目に見えない種族、妖精(シー)や精霊(シーブラ)となったと信じられている。


「ティール・ナ・ヌォーグ」はアイルランドの西海岸からはるか彼方にみられる魅惑的な島であるといわれる。
そして、この島はブラジルであるともいわれて、「イー・ブラジル」または「ハイ・ブラスエル」と呼ばれ、遠い見えない国への憧れの象徴となった。


伝説によると、フェーナ騎士団の首領フィンの息子で詩人のオシーンは「ティール・ナ・ヌォーグ」を訪れ、三百年の間戻ってこなかった・・・。


*ティル・ナ・ノグ 常若の国*

オシーンはある時父フィンやフェーナの騎士たちと狩猟を楽しんでいた。

その時白馬に乗った一人の女性が西の方から現れた。
フィンもフェーナたちもこれまでに見たことのないような美女で、頭には金の冠をかぶり、肩から地面までたっぷりした茶色の絹の衣装には星のような金がちりばめられている。胸元は金のブローチで留めていた。
まぶしく輝く豊かな金髪がマントをおおっている。青い目は露の雫のようだ。

 その女性の名はニーヴ、彼女はティール・ナ・ヌォーグから来たのだった。
父はその国の国王だった。ニーヴがフィンに「あなたの王子オシーンを愛しています」と言うのを聞いて、オシーンはすっかり彼女に夢中になった。

 ニーヴの語るティール・ナ・ヌォーグ、常若の国はつぎのようだった。

 「そこはいちばん美しい国です。金・銀・宝石、蜂蜜とワインがふんだんにあります。木々は一年中果実と花と緑の葉をつけています。
時が経っても衰えることも死ぬこともありません。いつまでも若く美しく力強いままなのです。
あなたがわたしと一緒に来てくだされば、わたしはあなたの妻となりましょう」

オシーンは即座に彼女と一緒に行くと答えたが、これを聞いたフィンとフェーナたちは嘆き、悲しみの叫び声を三度あげた。
 心配する父やフェーナたちに、すぐ帰ると約束してオシーンはニーヴとともに白い馬に乗り、海を渡って西の方へ行ってしまった。

 ニーヴの国に着くと、国中が緑と花に包まれ、平原が美しく広がっている。
海岸の近くには美しさと荘厳さで他に比類のない宮殿が聳えている。
金や色とりどりの宝石をちりばめた豪華きわまる造りだ。
 王が着けている光沢のある繻子の衣装も宝石で飾ってあり、王冠も金とダイヤモンドでまぶしいほどキラキラ光っている。

 オシーンを歓迎する喜びの宴が十日間続き、最後の日にオシーンとニーヴは結婚した。オシーンはこの国で楽しみに包まれて暮らすのであった。

 ところが三年も経ったと思われた頃のある日、オシーンは故国のことを想いだし、父のフィンやフェーナの仲間たちに会いたくなった。
 一度帰ってみようとニーヴに相談すると、彼女は不思議なことを言う。

「あなたの願いを拒むことはいたしません。
あなたが旅立たれるのはとても悲しいし恐ろしいことですけれど。
今のエリンはあなたが後にされた時のエリンではありません。お父上フィンもフェーナたちもみんないません。そのかわり神父や聖者がおおぜいいます。
これからわたしの言うことをよく聞いて心に留めておいてください。
この白い馬から絶対に降りないでください。
地上に降りれば、あなたはわたしのもとには帰れません。」

 ニーヴはこのことを三度も注意する。
 オシーンは必ず言葉どおりにすると約束してニ−ヴの馬にまたがり、もと来た道を戻って行く。

 故国アイルランドに帰ったオシーンは驚いてしまう。
昔の国はすっかり変わりはて、フィンやフェーナたちの姿はどこにも見当たらず、昔フェーナたちと狩りをした狩り場も酒を酌み交わした王宮も消え去っていた。

 途方にくれながら馬を走らせていると、オシーンは重い石を持ち上げようとしている男たちに出会う。
男たちがどうしても石を持ち上げられないのを見てオシーンは馬の上から手を貸して石を持ち上げてやる。

しかし、その瞬間馬のあぶみが切れ、オシーンは落馬してしまう。
大地に落ちた若者オシーンは一瞬にして老人に変わってしまった。
視力は衰え、美しい紅顔の紅は褪せ、力は萎え、地に伏すのは哀れな皺くちゃの弱々しい老いぼれだった。
悲しさのあまり途方にくれるオシーンを残して白馬は駆け去ってしまった。

 彼には三年と思えたティール・ナ・ヌォーグでの滞在はじつは三百年の歳月にわたっていたのだった。

<小辻梅子 著 『ケルト的ケルト考』 ケルトの妖精の国より抜粋>


*映画の日本語訳*

「・・・そして皆は幸せに300年も生き続けました。年を取ることもなく・・・ティアナン・オ−クの国で・・・」






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