よかよか医者

流行る医者の条件

 産婦人科の病院はいまや、ホテル並みの機能を持っているのは当たり前。プールや、スタジオを持ってマタニティビクス、マタニティスイミングなんてものもはや標準装備の時代です。もちろん、病院側に要求されるのはホテル並みのサービス。入院患者様にアンケートをとって、曰く、食事がまずい、部屋が暗い、シャワーが狭い、備え付けの茶碗の数が足りない、冷蔵庫にジュースをいれとけ、お茶のティーバッグがもっとほしい、等々それに対して落ち度の無いよう日夜改善しつづけている現状なのです。

 まぁ、産科の患者さんは基本的には病気でないのだし、自費入院ですから、そういったサービスも良いものです。一生に何回かしか無いお産のめでたい日をホテル並みのサービスで過ごせたら、とても楽しいではありませんか。

 それはそれで、反対しません。しかし、そう言う医療に慣れて、本当に必要な医療サービスをわすれてはいないでしょうか。また、患者さんもそういうサービスに慣れきってしまって、本当に自分の体のために必要な事を、人任せにしてしまっていないでしょうか?

 医療は確かにサービス業かもしれません。アンケートを取ると、人気のある医者は、怒らないやさしい医者なんだそうです。昔のお医者さんは、こわかったからねぇ。たしかにやさしい先生はとてもいい。でも、やさしいのと人気取りとはちょっと違います。しかし、開業医の中には、患者離れを恐れて、本当に必要なことを言わない医者も沢山いるのです。

             そういう医者がなにをやっているか?

 患者さんが、頭が痛くて来院したとします。まず、じゃ、頭痛薬を出しましょうから始まるわけです。風邪ひいてるのかもしれませんねぇ。ま、なにかあると困るから(なにがあるというのだ?)血液検査しておきましょう。え?頭痛薬のむと胃が痛くなる?じゃ、胃薬だしときましょう。あれ、血圧も少し高いねぇ。(頭痛いからじゃねぇのかぁ?)血圧の薬もだしときましょうね。年も考えるとコレステロールも高いんじゃないの?え、この間の検診でそう言われたって?やっぱりねぇ。あなた、将来、心筋梗塞や脳梗塞なっちゃうかもよ。コレステロール下げる薬もあげますから。あ、薬の吸収を良くするビタミン剤も出しとくから、必ずのんでくださいね。何せ、心筋梗塞や、脳梗塞になるかもしれないんだから、今のうちから予防しなくちゃ、大変なことになりますよぉ・・・。

 かくて、頭痛で医者に行った患者さんは、血液検査はもちろん、心電図から、CT検査までうけさせられて、何種類ものお薬を何年も飲みつづけることになるのでした。

だした薬の量と、検査の種類が医療サービスの基準なわけ?

本当にそれであなたはいいの?

 いや、また、これが本当にあることなんですよ。例えば、風邪薬。一般の薬局に売っている薬は、たいてい一種類ですむようになってますよね。ところが、何で、病院でもらう風邪薬ってあんなに種類が多いのでしょう。ま、症状に対して細かく処方してあるといえば、そうなんでしょうけどねぇ。所詮、風邪薬は、対症療法。よっぽどひどくなければ、そんなに細かく出す必要は無いんじゃないかと思うのは私だけですか?結構あそこの病院は沢山、薬をくれるからなんて喜んでいる患者さんもいるらしいし・・。それもサービスの内って事でしょうか?でもねぇ。風邪でこんな薬もらいました。といって、5〜6種類薬出されると面くらいますよ。みてみれば、こっちは消炎鎮痛剤、あっちは去痰剤、それが鎮咳剤で、これは抗ヒスタミン剤。追い討ちをかけるように気管支拡張剤に(風邪には)役立たずの抗生剤。とどめを刺すのは、薬をのみすぎて胃が痛くなるから健胃薬までついでに処方してある。まぁ、よくこれだけ薬袋につめこんだもんだと、感心してしまいます。ついでに総合感冒薬なんかも出してあるのを見ると、なにがどうして総合なんだぁ?と、首をかしげるばかりです。

 ちなみに、私は市販の風邪薬の方がよく効くと思っているので、どうしてもの時だけは市販薬をつかいます。ま、わざわざ買うのも高いので、家に置いてある適当な消炎剤をのんでごまかしてしまうこともしばしばですが・・・。

 でも、患者さんの中にはまだまだ薬信仰の強い方がいて、一度病院に来たからにはなんとしてでも薬をもらって帰ろうという方も多いです。薬の必要が無いことを説明すると、むきになって、症状が増える方もいらっしゃいます。それまでは熱なんて無いといっていたはずなのに、そう言えば寒気がしてきたとか、突然咳をし始めたりとか。ま、風邪薬位なら、短期間ですし、副作用もそんなに出ないだろうから、少しだしとこかなんて気持が、ひいては保険診療費の莫大な増加を呼んだのではないでしょうかね。それが自費負担を増やす原因になったのだとしたら、とんだサービスになってしまったわけです。

でも、それで本当にいいんですか?

自分のことは自分で守らなきゃ

 ときどき、外来に欧米の方がいらっしゃいます。(もちろん、日本語が堪能な。)で、やはり、あちらはインフォームドコンセントの国であるなぁと、感じさせられるのです。つまり、とにかく自分が納得しないと先に進まない。分からないことがあったら徹底的に質問します。その内容は、別に専門的でないことも多い。自分の経験上そうでない方が、良いんだけど。というようなことも結構おおいのです。そして、質問する替わりにこちらの話も、プロの意見として非常によく聞いてくれるし、理解できれば尊重もしてくれる。この辺が、外人さんと話していると、大変だけど、うれしいところです。結構そういう方も、日本人でいらっしゃるけれど、まだまだ少ない。意見の多い人は、結局自分の意見を言うだけで、こちらの言うことなんて聞きやしなかったり、どこかで仕入れてきた受け売りの知識をひけらかすばかりで、なら、そこの先生のとこへ行きゃぁいいジャンと思うような事も少なくありません。

 で、インフォームドコンセントの基本にあるものはなにかと考えますと、やはり、自分がどうしたいのかという確固たる意見だと思うのです。私は、薬は飲みたくないとか、副作用が少なければ薬は飲んでもいいとか、手術が必要なら手術をすぐに受けたいとか、他の方法があるのなら、それから始めたいとか。ひいては、私は、癌と宣告されたら、できる限りの治療を受けたいとか、成功の確率が、6割以上であると保証された治療しか受けたくないとか、確固たる自分の意見があるからこそ、説明を受けて、自分の納得できる方法を選択して、必要な治療を受けることができるのだと思います。しかし、その確固たる治療への考えというのは、元はといえば、自分の生き方への確固たる哲学でしょう。つまり、自分の存在スタイルが決まっていなければ、病という、自分の存在を脅かす外敵に対して、どのように対処するかという方法は決めようが無いでしょう。なんだか、いまの日本人に一番不得意そうな課題ですけれど・・・。

 まぁ、そんな小難しいことは考えなくても、もう少し、自分がどうしたいかを考えた方がいいのではないでしょうか。例えば、子宮筋腫で貧血がある患者さんが来られて、手術の治療、点鼻薬(鼻の中に噴霧する薬)の治療、注射の治療、そして経過観察と貧血の治療の、四つの方法をお話します。手術の話をすると、「ええ、手術ですかぁ、なんとかならないんですか?お腹切りたくないんですよねぇ、痛いでしょう?」点鼻薬の話をすると、「私、鼻炎あるから使えるかしら、しかも毎日でしょう?できるかしらぁ?」注射の話をすると、「私、注射嫌いなんです。」じゃぁ、少し様子を見て貧血の治療だけでもしましょうか?と言うと、「でも、筋腫は治らないんでしょ?」一体、誰の治療の話をしているんだ!と思ってしまいます。

 結局、その日は自分で決められずにとりあえずお帰りになって、後日いらっしゃるなり、「家族や友達から、それなら早く切るべきだって言われたんです。家族も、夏休みなら大丈夫だから、手術の予約を入れて来いって・・・。」で、あなたはどうなんですか?「周りが皆その方がいいって言うし、夏休みなら休みが取れるし、手術しようとおもうんですけど・・・。」

 んんん・・・・沢山の患者さんを待たせて長い時間かけて一生懸命説明したのは何だったの?あなたは誰の病気を治したいの?家族の病気を治してあげるつもりなの?あああああああああああ。まぁ、家族のことを考えて、自分で決めたというように考えれば良いのでしょうが、それにしても自分の手術を家族や友達に決めてもらうとは・・・。外来をやっているとそんな話はよくあるんです。これが、インフォームドコンセントといえるのかどうか?

 そして、これは絶対に忘れてはならないのは、あなた自身を守れるのは、あなた自身であるということです。あなたの家族は、最も協力的で不可欠なパートナーですし、信頼できる主治医は、治療への水先案内人です。でも、実際に治療を受けるのはあなた自身で、誰も替わることができないのです。最後の最後には、あなた自身が、いろいろな情報から自分に一番適切と思える治療を選択しなくてはならないのです。(次のページに続く)

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