古今和歌集 春夏秋冬(卷第一〜卷第六)
植松安 校註『八代集』上(*古今集・後撰集・拾遺集・後拾遺集)
(校註國歌大系3 國民圖書株式會社 1927.12.10)
※ 原本は正保四年版八代集に拠る。
※ 歌に通し番号を施した。
春夏秋冬
巻1
巻2
巻3
巻4
巻5
巻6
卷第一
春歌上
ふる年に春立ちける日よめる
在原元方
0001
年の内に 春はきにけり 一年を 去年とやいはむ 今年とやいはむ
としのうちに はるはきにけり ひととせを こぞとやいはむ ことしとやいはむ
春立ちける日よめる
紀貫之
0002
袖ひぢて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ
そでひぢて むすびしみづの こほれるを はるたつけふの かぜやとくらむ
題しらず
讀人しらず
0003
春霞 立てるやいづこ みよしのの 吉野の山に 雪は降りつゝ
はるがすみ たてるやいづこ みよしのの よしののやまに ゆきはふりつつ
二條の后〔清和天皇の皇后。藤原長良の女。高子。〕の春のはじめの御歌
(二條の后)
0004
雪のうちに 春は來にけり 鶯の 冰れる涙 いまやとくらむ
ゆきのうちに はるはきにけり うぐひすの こほれるなみだ いまやとくらむ
題知らず
讀人しらず
0005
梅が枝に きゐる鶯 はるかけて 鳴けどもいまだ 雪はふりつゝ
うめがえに きゐるうぐひす はるかけて なけどもいまだ ゆきはふりつつ
雪の木に降りかゝれるをよめる
素性法師
0006
春たてば 花とや見らむ(*「見らむ」=「見るらむ」。「見」は連用形とも、終止形ともいう。) しら雪の かゝれる枝に 鶯のなく
はるたてば はなとやみらむ しらゆきの かかれるえだに うぐひすのなく
題知らず
讀人しらず
0007
心ざし 深くそめてし(*「し」は強意の副助詞) をりければ 消えあへぬ雪の 花と見ゆらむ
こころざし ふかくそめてし をりければ きえあへぬゆきの はなとみゆらむ
二條の后の東宮の御息所〔東宮は貞明親王である。東宮の御生母の意。〕と聞えける時、正月三日御前に召して仰言ある間に、日は照りながら雪の頭に降りかゝりけるをよませ給ひける
文屋康秀
0008
春の日の 光にあたる われなれど かしらの雪と なるぞわびしき
はるのひの ひかりにあたる われなれど かしらのゆきと なるぞわびしき
雪の降りけるをよめる
紀貫之
0009
かすみ立ち 木の芽も春の 雪ふれば 花なき里も 花ぞちりける
かすみたち このめもはるの ゆきふれば はななきさとも はなぞちりける
春のはじめによめる
藤原言直
0010
春やとき 花やおそきと 聞きわかむ 鶯だにも 鳴かずもあるかな
はるやとき はなやおそきと ききわかむ うぐひすだにも なかずもあるかな
春のはじめの歌
壬生忠岑
0011
春來ぬと 人はいへども 鶯の 鳴かぬ限りは あらじとぞおもふ
はるきぬと ひとはいへども うぐひすの なかぬかぎりは あらじとぞおもふ
寛平の御時后の宮〔この后の宮は藤原基經の女。七條后温子。〕(*ママ)の歌合の歌
源當純
0012
谷風に とくる冰の ひまごとに うち出づる浪や 春のはつ花
たにかぜに とくるこほりの ひまごとに うちいづるなみや はるのはつはな
紀友則
0013
花の香を 風のたよりに たぐへてぞ 鶯さそふ しるべにはやる
はなのかを かぜのたよりに たぐへてぞ うぐひすさそふ しるべにはやる
大江千里
0014
鶯の 谷よりいづる 聲なくば 春くることを たれか知らまし
うぐひすの たによりいづる こゑなくば はるくることを たれかしらまし
在原棟梁
0015
春たてど 花もにほはぬ 山里は ものうかる音に 鶯のなく
はるたてど はなもにほはぬ やまざとは ものうかるねに うぐひすのなく
題知らず
讀人しらず
0016
野邊ちかく 家居しをれば 鶯の なくなる聲は あさな\/聞く
のべちかく いへゐしをれば うぐひすの なくなるこゑは あさなあさなきく
0017
春日野は 今日はな燒きそ 若草の 妻も籠れり われも籠れり
かすがのは けふはなやきそ わかくさの つまもこもれり われもこもれり
0018
かすが野の 飛火の野守 いでて見よ 今幾日ありて 若菜摘みてむ
かすがのの とぶひののもり いでてみよ いまいくかありて わかなつみてむ
0019
み山には 松の雪だに きえなくに 都は野邊の 若菜摘みてむ
みやまには まつのゆきだに きえなくに みやこはのべの わかなつみてむ
0020
梓弓 おして春雨 今日降りぬ 明日さへふらば 若菜つみてむ
あづさゆみ おしてはるさめ けふふりぬ あすさへふらば わかなつみてむ
仁和のみかど〔光孝天皇〕、皇子におまし\/ける時に人に若菜たまひける御歌
0021
君がため 春の野にいでて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつゝ
きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
歌奉れと仰せられし時詠みて奉れる
貫之
0022
春日野の 若菜つみにや しろたへの 袖ふりはへて 人の行くらむ
かすがのの わかなつみにや しろたへの そでふりはへて ひとのゆくらむ
題知らず
在原行平朝臣
0023
春のきる かすみの衣 ぬきをうすみ 山風にこそ 亂るべらなれ
はるのきる かすみのころも ぬきをうすみ やまかぜにこそ みだるべらなれ
寛平の御時后の宮の歌合に詠める
源宗于朝臣
0024
ときはなる 松のみどりも 春くれば 今ひとしほの 色まさりけり
ときはなる まつのみどりも はるくれば いまひとしほの いろまさりけり
歌奉れと仰せられし時、詠みてたてまつれる
貫之
0025
我がせこが 衣はる雨 ふるごとに 野邊の緑ぞ 色まさりける
わがせこが ころもはるさめ ふるごとに のべのみどりぞ いろまさりける
0026
あをやぎの 絲よりかくる 春しもぞ 亂れて花の 綻びにける
あをやぎの いとよりかくる はるしもぞ みだれてはなの ほころびにける
西大寺のほとりの柳をよめる
僧正遍昭
0027
あさみどり 絲よりかけて 白露を 玉にもぬける 春のやなぎか
あさみどり いとよりかけて しらつゆを たまにもぬける はるのやなぎか
題知らず
讀人しらず
0028
百千鳥 さへづる春は 物ごとに あらたまれども 我ぞふりゆく
ももちどり さへづるはるは ものごとに あらたまれども われぞふりゆく
0029
をちこちの たづきも知らぬ 山中に おぼつかなくも 呼子鳥かな(*【鳥獣虫魚】喚子鳥:郭公(かっこう)・時鳥等)
をちこちの たづきもしらぬ やまなかに おぼつかなくも よぶこどりかな
鴈の聲を聞きて、越へまかりける人を思ひてよめる
凡河内躬恆
0030
春くれば 鴈かへるなり 白雲の みち行きぶりに ことやつてまし
はるくれば かりかへるなり しらくもの みちゆきぶりに ことやつてまし
歸る鴈をよめる
伊勢
0031
春霞 たつを見捨てて ゆく鴈は 花なき里に 住みやならへる
はるがすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる
題知らず
讀人しらず
0032
折りつれば 袖こそ匂へ 梅の花 ありとやこゝに 鶯の鳴く
をりつれば そでこそにほへ うめのはな ありとやここに うぐひすのなく
0033
色よりも 香こそあはれと 思ほゆれ たが袖ふれし 宿の梅ぞも
いろよりも かこそあはれと おもほゆれ たがそでふれし やどのうめぞも
0034
宿近く 梅の花うゑじ あぢきなく 待つ人の香に あやまたれけり
やどちかく うめのはなうゑじ あぢきなく まつひとのかに あやまたれけり
0035
梅の花 立ちよるばかり ありしより 人のとがむる 香にぞしみける
うめのはな たちよるばかり ありしより ひとのとがむる かにぞしみける
梅の花を折りてよめる
東三條の左のおほいまうち君〔嵯峨天皇御子源常。左大臣であつた。〕
0036
鶯の 笠にぬふてふ 梅の花 をりてかざさむ 老いかくるやと
うぐひすの かさにぬふてふ うめのはな をりてかざさむ おいかくるやと
題しらず
素性法師
0037
よそにのみ あはれとぞ見し 梅の花 あかぬ色香は 折りてなりけり
よそにのみ あはれとぞみし うめのはな あかぬいろかは をりてなりけり
梅の花を折りて人におくりける
友則
0038
君ならで たれにか見せむ 梅のはな 色をも香をも 知る人ぞ知る
きみならで たれにかみせむ うめのはな いろをもかをも しるひとぞしる
くらぶ山にてよめる
貫之
0039
梅の花 匂ふ春べは くらぶ山 闇に越ゆれど しるくぞありける
うめのはな にほふはるべは くらぶやま やみにこゆれど しるくぞありける
月夜に「梅の花を折りて」と人のいひければをるとてよめる
躬恆
0040
月夜には それとも見えず 梅の花 香を尋ねてぞ 知るべかりける
つきよには それともみえず うめのはな かをたづねてぞ しるべかりける
春の夜梅の花をよめる
(躬恒)
0041
春の夜の 闇はあやなし 梅の花 色こそ見えね 香やはかくるゝ
はるのよの やみはあやなし うめのはな いろこそみえね かやはかくるる
0042
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