古今和歌集 卷第七〜卷第十
(植松安 校註『八代集』上 校註國歌大系3 國民圖書株式會社 1927.12.10)
※ 歌に通し番号を施した。〔原注〕、(*入力者注)
古今和歌集序(紀淑望)
古今和歌集序(紀貫之)
巻1(春歌上)
巻2(春歌下)
巻3(夏歌)
巻4(秋歌上)
巻5(秋歌下)
巻6(冬歌)
巻7(賀歌)
巻8(離別歌)
巻9(羇旅歌)
巻10(物名)
巻11(恋歌一)
巻12(恋歌二)
巻13(恋歌三)
巻14(恋歌四)
巻15(恋歌五)
巻16(哀傷歌)
巻17(雑歌上)
巻18(雑歌下)
巻19(雑体)
巻20(大歌所御歌)
卷第七 賀歌
0343
題しらず
讀人しらず
我が君は 千世に八千代に さゞれ石の いはほとなりて 苔のむすまで
0344
わたつ海の 濱の眞砂を 數へつゝ 君が千とせの ありかずにせむ
0345
しほの山 さしでの磯に すむ千鳥 君が御代をば やちよとぞ鳴く
0346
我が齡 きみがやちよに とり添へて とゞめおきてば 思ひでにせよ
0347
仁和の御時(*光孝天皇の代)僧正遍昭に七十の賀給ひける時の御歌
かくしつゝ とにもかくにも 長らへて 君が八千代に 逢ふよしもがな
0348
仁和の帝のみこにおはしましける時に御をばの八十の賀にしろがねを杖につくれりけるを見てかの御をばにかはりてよめる
僧正遍昭
千早ぶる 神のきりけむ つくからに 千年の坂も 越えぬべらなり
0349
堀河のおほいまうちぎみ(*藤原基経)の四十の賀九條の家にてしける時によめる
在原業平朝臣
櫻花 ちりかひ曇れ おいらくの 來むといふなる みちまがふがに
0350
さだときの皇子(*貞辰親王。清和天皇の皇子。)のをばの四十の賀を大井にてしける日よめる
紀これをか(*紀惟岳)
龜のをの やまのいはねを とめておつる 瀧の白玉 千世の數かも
0351
さだやすのみこ(*貞保親王。清和天皇の皇子。)の后の宮(*二条の后)の五十の賀奉りける御屏風に櫻の花のちる下に人の花見たるかた書けるをよめる
藤原興風
いたづらに 過ぐる月日は おもほえで 花見てくらす 春ぞすくなき
0352
もとやすのみこ(*本康親王。仁明天皇の皇子。)の七十の賀のうしろの屏風によみて書きける
紀貫之
春くれば 宿にまづ咲く 梅のはな 君がちとせの かざしとぞ見る
0353
素性法師
いにしへに ありきあらずは 知らねども 千年のためし 君にはじめむ
0354
ふして思ひ おきて數ふる 萬世は 神ぞしるらむ わが君のため
0355
藤原三善が六十の賀によみける
在原滋春(*在原業平の子)
鶴かめも 千年ののちは 知らなくに あかぬ心に まかせ果ててむ
此の歌は或人在原のときはる(*在原時春。滋春の子。)がともいふ
0356
良岑のつねなり(*良岑経也)が四十の賀にむすめにかはりてよみ侍りける
素性法師
萬代を まつにぞ君を いはひつる 千年のかげに 住まむと思へば
0357
内侍のかみ(*藤原満子。藤原高藤女。)の右大將藤原朝臣(*藤原定国。満子の兄。)の四十の賀しける時に四季の繪かける後の屏風にかきたりける歌
春
かすが野に 若菜つみつゝ 萬代を いはふ心は 神ぞしるらむ
0358
躬恆
やまたかみ 雲居に見ゆる 櫻花 こゝろのゆきて 折らぬ日ぞなき
0359
夏
友則
めづらしき 聲ならなくに 郭公 こゝらの年を あかずもあるかな
0360
秋
躬恆
すみの江の 松をあきかぜ 吹くからに 聲うちそふる 沖つしらなみ
0361
忠岑
千鳥鳴く さほの川霧 たちぬらし 山の木の葉も 色まさりゆく
0362
是則
秋くれど 色もかはらぬ ときは山 よそのもみぢを 風ぞかしける
0363
冬
貫之
白雪の 降りしくときは みよしのの やました風に 花ぞちりける
0364
春宮(*保明親王。醍醐天皇の皇子。)の生まれたまへりける時にまゐりてよめる
典侍藤原よるかの朝臣(*藤原因香)
みねたかき 春日の山に いづる日は くもる時なく 照らすべらなり
卷第八 離別歌
0365
題しらず
在原行平朝臣
立ち別れ いなばの山の 嶺に生ふる まつとしきかば 今かへりこむ
0366
讀人しらず
すがるなく 秋のはぎはら 朝たちて 旅ゆく人を いつとか待たむ
0367
限りなき くもゐのよそに 別るとも 人を心に おくらさむやは
0368
小野のちふる(*小野千古)が陸奧の介にまかりける時に母のよめる
たらちねの 親のまもりと あひ添ふる 心ばかりは 關なとゞめそ
0369
さだときのみこ(*貞辰親王)の家にて藤原のきよふ(*藤原清生)が近江の介にまかりける時にむまのはなむけしける夜よめる
紀としさだ(*紀利貞)
今日別れ あすはあふみと 思へども 夜や更けぬらむ 袖の露けき
0370
こしへまかりける人によみて遣はしける
かへるやま(*鹿蒜山) ありとは聞けど 春霞 たちわかれなば 戀しかるべし
0371
人のむまのはなむけにてよめる
紀貫之
をしむから 戀しきものを 白雲の 立ちなむのちは なに心地せむ
0372
ともだちの人の國へまかりけるによめる
在原滋春
別れては 程をへだつと 思へばや かつ見ながらに かねて戀しき
0373
あづまの方へまかりける人によみて遣はしける
いかこのあつゆき(*伊香子淳行)
思へども 身をし分けねば 目に見えぬ 心を君に たぐへてぞやる
0374
逢坂にて人を別れける時に詠める
なにはのよろづを(*難波万雄)
あふさかの 關しまさしき ものならば あかず別るゝ 君をとゞめよ
0375
題しらず
讀人しらず
から衣 たつ日はきかじ 朝露の おきてし行けば けぬべきものを
この歌はある人つかさを賜はりてあたらしき妻につきて年經て住みける人を捨ててたゞ明日なむ立つとばかりいへりける時にともかくもいはでよみて遣はしける
0376
常陸へまかりけるときに藤原公利によみてつかはしける
寵
朝なけに 見べききみとし たのまねば おもひたちぬる 草枕なり
0377
紀のむねさだがあづまへまかりける時に人の家に宿りて曉出でたつとてまかり申しければ女のよみていだせりける
讀人しらず
えぞ知らぬ いまこゝろみよ 命あらば われやわするゝ 人やとはぬと
0378
あひ知りて侍りける人の東の方へまかりけるを送るとてよめる
深養父
くもゐにも 通ふ心の おくれねば わかると人に 見ゆばかりなり
0379
友のあづまへまかりける時によめる
良岑ひでをか(*良岑秀崇)
しらくもの こなたかなたに たち別れ 心をぬさと(*幣を裁断するように) くだく旅かな
0380
みちのくにへまかりける人によみて遣はしける
貫之
白雲の やへにかさなる をちにても 思はむ人に 心へだつな
0381
人を別れける時によめる
わかれてふ ことは色にも あらなくに 心にしみて わびしかるらむ
0382
あひしれりける人のこしの國にまかりて年へて京にまうできて又歸りける時によめる
凡河内躬恆
かへる山 何ぞはありて あるかひは 來てもとまらぬ 名にこそありけれ
0383
こしの國にまかりける人によみてつかはしける
外にのみ 戀ひや渡らむ 白山(*しらやま。「越の白山」は391番の歌を参照。)の ゆき見るべくも あらぬ我が身は
0384
音羽山のほとりにて人を別るとてよめる
貫之
おとはやま こだかくなきて 郭公 きみがわかれを 惜しむべらなり
0385
藤原後蔭がから物の使に長月のつごもり方にまかりけるに上のをのこども酒たうびけるついでによめる
藤原かねもち(*藤原兼茂)
もろともに 鳴きてとゞめよ 蛬 秋のわかれは 惜しくやはあらぬ
0386
平もとのり(*平元規)
秋霧の ともに立ちいでて 別れなば 晴れぬおもひに 戀ひやわたらむ
0387
源のさね(*源実)がつくしへ湯あみむ(*「浴む」は上二段に活用)とてまかりける時に山崎にてわかれ惜しみける所にてよめる
しろめ(*白女)
いのちだに 心にかなふ ものならば 何かわかれの 悲しからまし
0388
山崎より神なびの森まで送りに人々まかりて歸りがてにしてわかれ惜しみけるによめる
源さね
人やりの 道ならなくに 大方は いきうしといひて いざ歸りなむ
0389
今は是れより歸りねとさねがいひけるをりによみける
藤原かねもち(*藤原兼茂)
慕はれて 來にし心の 身にしあれば 歸るさまには 道も知られず
0390
藤原のこれをか(*藤原惟岳)が武藏の介にまかりける時に送りに逢坂を越ゆとてよみける
貫之
かつ越えて 別れもゆくか 逢坂は 人だのめなる 名にこそありけれ
0391
大江の千古が越へ罷りける馬の餞によめる
藤原兼輔朝臣
君が行く こしの白山 しらねども 雪のまに\/ あとはたづねむ
0392
人の花山(*元慶寺。遍昭が住持をしていた。)に詣できて夕さりつ方歸りなむとしける時によめる
僧正遍昭
夕暮の まがきは山と 見えななむ 夜は越えじと やどりとるべく
0393
山に登りて歸りまうできて人々別れけるついでによめる
幽仙法師
わかれをば 山の櫻に まかせてむ とめむとめじは 花のまに\/
0394
雲林院のみこ(*常康親王)の舍利會に山に登りて歸りけるに櫻の花のもとにてよめる
僧正遍昭
山風に 櫻ふきまき みだれなむ 花のまぎれに 立ちとまるべく
0395
幽仙法師
ことならば(*同じことなら) 君留まるべく 匂はなむ 歸すは花の 憂きにやはあらぬ
0396
仁和の帝(*光孝天皇)みこにおはしましける時にふるの瀧御覽じにおはしまして歸り給ひけるに詠める
兼藝法師
あかずして 別るゝ涙 たきにそふ 水まさるとや しもは見ゆらむ
0397
かんなりのつぼ(*襲芳舎)にめしたりける日おほみきなどたうべて雨のいたう降りければ夕さりまで侍りて罷り出で侍りける折に杯をとりて
貫之
秋萩の はなをば雨に ぬらせども 君をばまして をしとこそ思へ
0398
とよめりけるかへし
兼覽王
をしむらむ 人の心を しらぬまに 秋のしぐれと 身ぞふりにける
0399
兼覽のおほきみに初めて物語して別れける時によめる
躬恆
別るれど 嬉しくもあるか 今宵より あひみぬ先に 何を戀ひまし
0400
題しらず
讀人しらず
あかずして わかるゝ袖の 白玉は 君がかたみと つゝみてぞゆく
0401
かぎりなく 思ふ涙に そぼちぬる 袖はかわかじ あはむ日までに
0402
かきくらし ことは(*同じことなら)降らなむ 春雨に ぬれぎぬきせて 君をとゞめむ
0403
しひて行く ひとをとゞめむ 櫻花 いづれを道と まどふまで散れ
0404
志賀の山越にて石井のもとにて物いひける人の別れける折によめる
貫之
むすぶ手の 雫ににごる 山の井の あかでも人に 別れぬるかな
0405
道にあへりける人の車に物いひつきて別れける所にてよめる
友則
下の帶の 道はかた\〃/ 別るとも 行き廻りても 逢はむとぞ思ふ
卷第九 羇旅歌(*原文「■(覊の馬を奇に:き::大漢和34794)旅歌」)
0406
もろこしにて月を見てよみける
安倍仲麿
あまの原 ふりさけ見れば かすがなる 三笠の山に いでし月かも
この歌は昔仲麿を唐土に物ならはしに遣はしたりけるにあまたの年を經てえ歸りまうで來ざりけるをこの國より又使まかりいたりけるにたぐひてまうできなむとて出でたりけるにめい州といふ所の海邊にてかの國の人むまのはなむけしけりよるになりて月のいと面白くいでたりけるを見てよめるとなむ語り傳ふる
0407
おきの國に流されける時に船にのりていでたつとて京なる人の許に遣はしける
小野篁朝臣
わたの原 八十島かけて こぎいでぬと 人には告げよ 蜑のつり舟
0408
題しらず
讀人しらず
都いでて 今日みかのはら いづみ川 かはかぜさむし 衣かせやま(*鹿背山)
0409
ほの\〃/と 明石の浦の 朝霧に 島がくれ行く ふねをしぞおもふ
此の歌はある人のいはく柿本人麿がなり
0410
あづまの方へ友とする人一人二人いざなひていきけり三河國八橋といふ所にいたれりけるにその川のほとりに杜若いと面白う咲けりけるを見て木の蔭におりゐて杜若といふ五文字を句のかしらにすゑて旅の心をよまむとてよめる
在原業平朝臣
唐衣 きつゝなれにし 妻しあれば はる\〃/きぬる 旅をしぞ思ふ
0411
武藏の國と下總の國との中にある角田川の邊に到りて都のいと戀しう覺えければしばし川のほとりにおりゐて思ひやれば限りなく遠くも來にけるかなと思ひわびてながめをるに渡守はや舟に乘れ日も暮れぬといひければ舟に乘りて渡らむとするに皆人物わびしくて京に思ふ人なくしもあらずさる折に白き鳥のはしと足と赤き川のほとりに遊びけり京には見えぬ鳥なりければ皆人見しらず渡守にこれは何鳥ぞと問ひければこれなむ都鳥といひけるを聞きてよめる
名にしおはば いざこととはむ 都鳥 我が思ふ人は ありやなしやと
0412
題しらず
讀人しらず
北へゆく 鴈ぞ鳴くなる つれてこし 數はたらでぞ 歸るべらなる
此の歌はある人男女もろともに人の國へまかりけり男まかりいたりて即ちみまかりにければ女ひとり京へ歸る道に鴈の鳴きけるを聞きてよめるとなむいふ
0413
あづまの方より京へまうでくとて道にてよめる
おと(*乙)
山かくす 春のかすみぞ 恨めしき いづれ都の さかひなるらむ
0414
越の國へまかりけるとき白山を見てよめる
躬恆
消えはつる 時しなければ 越路なる 白山の名は 雪にぞありける
0415
あづまへまかりける時道にてよめる
貫之
絲による ものならなくに 別れ路の 心ぼそくも 思ほゆるかな
0416
甲斐の國にまかりける時道にてよめる
躬恆
夜をさむみ 置くはつ霜を はらひつゝ 草の枕に あまたたびねぬ
0417
但馬の國の湯へまかりける時に二見の浦といふ所に泊りて夕さりのかれいひたうべけるに共にありける人々歌よみけるついでによめる
藤原かねすけ
夕月夜 おぼつかなきを 玉くしげ ふたみの浦は あけてこそみめ
0418
惟喬のみこのともに狩にまかりける時に天の川といふ所の川のほとりにおりゐて酒など飮みけるついでに皇子のいひけらく狩して天の川原にいたるといふ心をよみて杯はさせと云ひければよめる
在原業平朝臣
狩り暮し たなばたつめに 宿からむ 天の川原に われは來にけり
0419
みここの歌をかへす\〃/よみつゝかへしえせずなりにければともに侍りてよめる
紀有常
ひととせに ひとたび來ます 君まてば 宿かす人も あらじとぞおもふ
0420
朱雀院(*宇多上皇)の奈良におはしましける時に手向山にてよめる
菅原朝臣
このたびは ぬさもとりあへず 手向山 もみぢの錦 神のまに\/
0421
素性法師
手向には つゞりの袖も きる(*切る)べきに 紅葉にあける 神やかへさむ
卷第十 物名
※ テキスト傍点部分を太字で示した。
0422
うぐひす
藤原敏行朝臣
心から 花のしづくに そぼちつゝ うくひず(*憂く乾ず)とのみ 鳥の鳴くらむ
0423
ほとゝぎす
くべきほど ときすぎぬれや 待ちわびて 鳴くなる聲の 人をとよむる
0424
うつせみ
在原しげはる(*在原滋春)
波のうつ せみれば(*瀬見れば)玉ぞ みだれける 拾はば袖に はかなからむや
0425
かへし
壬生忠岑
袂より 離れて玉を つゝまめや これなむそれと うつせみむ(*移せ。見む)かし
0426
うめ
讀人しらず
あなうめに(*憂。目に) 常なるべくも 見えぬかな 戀しかるべき 香は匂ひつゝ
0427
かにはざくら(*樺桜)
貫之
かづけども 波のなかには さぐられで 風吹くごとに 浮き沈む玉
0428
すもゝの花
今いくか 春しなければ うぐひすも ゝのはながめて 思ふべらなり
0429
からもゝの花
深養父
あふからも ゝのはなほこそ 悲しけれ 別れむことを かねて思へば
0430
たちばな
小野しげかげ(*小野滋蔭)
足引の 山たちはなれ 行く雲の やどり定めぬ 世にこそありけれ
0431
をがたまの木(*黄心樹)
友則
み吉野の 吉野の瀧に 浮びいづる 泡をかたまの きゆと見ゆらむ
0432
山がきの木
讀人しらず
秋はきぬ 今やまがきの きり\〃/す 夜な\/なかむ 風の寒さに
0433
あふひ かつら
かくばかり あふひの稀に なる人を いかがつらしと 思はざるべき
0434
人めゆゑ 後にあふひの 遙けくは(*原文「遙けくば」) わがつらきにや 思ひなされむ
0435
くたに(*苦胆・木丹−リンドウともボタンともいう。)
僧正遍昭
散りぬれば 後はあくたに なる花を 思ひ知らずも まどふ蝶かな
0436
さうび
貫之
我はけさ うひにぞ見つる 花の色を あだなる物と いふべかりけり
0437
をみなへし
友則
しら露を 玉にぬくとや さゝがにの 花にも葉にも 絲をみなへし(*綜し)
0438
朝露を わけそぼちつゝ 花見むと いまぞ野山を みなへしりぬる(*皆経、知りぬる)
0439
朱雀院(*宇多法皇御所)の女郎花あはせの時にをみなへしといふ五文字を句のかしらに置きてよめる(*折句)
貫之
をぐら山 みねたちならし なく鹿の へにけむ秋を しる人ぞなき
0440
きちかうの花
友則
あきちかう のはなりにけり 白露の 置ける草葉も 色かはりゆく
0441
しをに
讀人しらず
ふりはへて(*ことさらに) いざ故郷の 花見むと こしをにほひぞ 移ろひにける
0442
りうたんの花
友則
我が宿の 花ふみしだく とりうたん のはなければや こゝにしもくる
0443
をばな
讀人しらず
ありと見て たのむぞ難き 空蝉の 世をばなしとや 思ひなしてむ
0444
けにごし(*牽牛子〔けにごし・けんごし〕=朝顔)
谷田部名實
うちつけに こし(*濃し)とや花の 色をみむ おく白露の そむるばかりを
0445
二條の后春宮の御息所と申しける時にめど(*蓍〔めど・めどき〕)にけづり花(*木を削って作った造花)させりけるをよませ給ひける
文屋康秀
花の木に あらざらめども 咲きにけり ふりにし果 なるときもがな
0446
しのぶぐさ
紀としさだ(*紀利貞)
山高み つねにあらしの ふくさとは 匂ひもあへず 花ぞ散りける
0447
やまし(*花菅)
平あつゆき(*平篤行)
郭公 みねの雪にや まじりにし 有りとは聞けど 見るよしもなき
0448
からはぎ(*唐萩・萩)
讀人しらず
空蝉の からはきごとに とゞむれど 魂のゆくへを 見ぬぞかなしき
0449
かはなぐさ(*川菜草=カワモズク)
深養父
うば玉の 夢になにかは なぐさまむ うつゝにだにも あかぬ心を
0450
さがりごけ(*サルオガセ)
たかむこのとしはる(*高向利春)
花の色は 唯ひとさかり こけれども(*濃けれども) かへす\〃/ぞ 露はそめける
0451
にがたけ(*マダケ、メダケ)
滋春(*在原滋春)
命とて 露をたのむに かたければ ものわびしらに なく野邊の蟲
0452
かはたけ(*これもマダケ、メダケ)
景式王(*かげのりのおほきみ:惟条親王の子)
さよふけて なかばたけゆく ひさかたの 月吹きかへせ 秋の山風
0453
わらび
素性法師(*ママ。他のテキストでは真静法師とする。)
煙たち 燃ゆとも見えぬ 草の葉を 誰かわらび(*藁火の意を含む。)と 名づけそめけむ
0454
さゝ まつ びは ばせをば
紀のめのと
いさゝめに 時まつまにぞ ひはへぬる 心ばせをば 人に見えつゝ
0455
なし なつめ くるみ
兵衞(*藤原高経女。藤原忠房室。)
あぢきなし 歎きなつめそ 憂き事に あひくるみをば 捨てぬものから
0456
からこと(*唐琴)といふ所にて春の立ちける日よめる
安倍清行朝臣
波のおとの けさからことに きこゆるは 春のしらべや 改まるらむ
0457
いかが崎(*河内国伊香・伊加賀)
兼覽王
かぢにあたる 棹の雫を 春なれば いかがさき散る 花と見ざらむ
0458
からさき
阿保のつねみ(*阿保経覧)
かの方に いつからさきに 渡りけむ 波路はあとも のこらざりけり
0459
伊勢
波の花 おきからさきて 散りくめり 水の春とは かぜやなるらむ
0460
紙屋川
貫之
うばたまの 我がくろかみや かはるらむ 鏡のかげに ふれるしら雪
0461
よど川
あしびきの 山邊にをれば 白雲の いかにせよとか はるゝ時なき
0462
かた野
忠岑
なつぐさの うへはしげれる 沼水の ゆくかたのなき わが心かな
0463
桂の宮
源ほどこす(*源忠)
秋くれど 月のかつらの みやはなる(*実やは生る) 光をはなと ちらすばかりを
0464
百和香(*はくわかう:合せ香か。)
讀人しらず
花ごとに あかず散らしし 風なれば 幾そばくわが うしとかは思ふ
0465
すみながし
滋春
春がすみ なかし通ひ路 なかりせば 秋くる鴈は かへらざらまし
0466
おき火
都良香
流れいづる かただに見えぬ 涙川 おきひむ(*沖干む)時や そこは知られむ
0467
ちまき
大江千里
のちまきの 後れて生ふる 苗なれど あだにはならぬ 頼みとぞ聞く
0468
はをはじめるをはてにてながめをかけて時の歌よめと人のいひければよめる
僧正聖寶
はなのなか めにあくや(*目に飽くや)とて 分けゆけば 心ぞ共に 散りぬべらなる
(巻7〜巻10 <了>)
古今和歌集序(紀淑望)
古今和歌集序(紀貫之)
巻1(春歌上)
巻2(春歌下)
巻3(夏歌)
巻4(秋歌上)
巻5(秋歌下)
巻6(冬歌)
巻7(賀歌)
巻8(離別歌)
巻9(羇旅歌)
巻10(物名)
巻11(恋歌一)
巻12(恋歌二)
巻13(恋歌三)
巻14(恋歌四)
巻15(恋歌五)
巻16(哀傷歌)
巻17(雑歌上)
巻18(雑歌下)
巻19(雑体)
巻20(大歌所御歌)