66話(05.08.18)

SOUL BREAKER第2段 〜 自作アンプ7,8,9号機(3台)

 

2005・08・18 作成開始

2005・08・28 パネル文字入れ開始、電源配線等

2005.09.15 音だし

2005.10.10 1台完成

 

 

作成開始

 

今回の製作の目的:

そもそも、あるギターアンプの回路図を見て、同じ回路ができたとしても出てくる音は違ってくる。(WEBにある回路をそのまま使って、アンプを作ることができたとしても、同じ音にはならない)

私が常に目指している音はRobben Fordのクランチ、Larry Carltonのクリーントーンであり、必然的にダンブルの音ということになる。(自分の頭の中での理想化されているかもしれないが、、)

 現在入手できるパーツで結果である音を追い求める場合、必然的にオリジナルのアンプと回路が異なってくるはずであると考えるようになってきた。

 

 そのような状況の中で、今回は「パワー管の歪み」という事にスポットを当てて考えて見た。

ギターアンプの謳い文句、あるいは、よく聞く言葉で「パワー管の歪み]という言葉を耳にする。

そこで、ふと疑問になりパワー管が本当に歪んでいるのかどうかを考え出した。結論としては、「今のギターアンプの回路では、パワー管を歪ませることはできない」ということがわかった。

理由としては以下の通りである。

 パワー管のグリッド(入力)は通常マイナスにバイアスされている。プリ部からの入力信号が大きくなりバイアスが0Vに近くなると、パワー管はプリ部からの信号を拒むように入力インピーダンスを下げる。具体的にはグリッドに初速度電流と呼ばれる電流を流し、まるで0V以上の大きな入力を拒んでいるかのような動作をする。

 普通のギターアンプの場合、上記のようなパワー管の動作によって、プリ部(具体的にはプッシュプルアンプの場合はドライバー出力の信号)が歪んでしまう。

結果、パワー管は、自らのグリッドの初速度電流によって歪んでしまった信号を増幅しているに過ぎない。

「パワー管は歪みたくても歪むことができない動作をしている」と感じた。

 

 そこで、本当にパワー管を歪ませるにはどうするべきか?ということを考えた。いずれにしてもパワー管のドライブ回路を強固な回路にしなければならないし、グリッドを0V以上までドライブすることを考えるとグリッドにコンデンサは入れられない。

 答えは2つありそうである。一つはインターステージトランスというトランスをドライブ回路の出力とパワー管の間にいれること。

もう一つは、ドライブ回路の出力にバッファーアンプをいれること。

 インターステージトランスはなかなか作成しているメーカーがなく、あってもやたらと高価であった、またパワー管の励振レベルも変わってくるので設計が大変そうである。そのため今回は2つ目の答えであるバッファーアンプをいれることを考える。バッファーアンプはもちろん真空管で構成する。(バッファアンプとは、ゲインが1以下のアンプのことで、インピーダンスを変換するのに用いる)

 このようにして考えられた今回のアンプは2級アンプと呼ばれる。構想に半年以上費やした。(2級アンプについてはHP上の「ギターリストのためのアンプ講座」で説明したいと思う。

 

 ここまでが、パワー管をドライブ可能なアンプの構想であり、前回の自作アンプ6号機では今回のアンプのための実験機とした。予想ではパワー部とドライブ部が直結されているので、固めの音がするかなと想像していた。

 第65話で実験したAB2級アンプでパワー管が歪む事がわかった。また、65話でもリンクしているようにその出音についても、芯のあるクランチサウンドが得られ、これがAB2級動作の音ということがわかり、私の理想としている音に近い事もわかった。

 結果としては思った以上にクリーンの領域が広く、クランチサウンドに芯があり、よい音であった。実験用のため配線材も、コンデンサも抵抗も手持ちの安物を使ったにもかかわらず、である。

実験機の音を聞き、かなり期待できそうなアンプになると感じ、反省を踏まえて今回の作成を行う。

 

65話の実験機では2つ反省点があった。

 一つ目は、2級アンプの場合、マイナス電源が大きな物となる。実験機ではマイナス電源にブリーダー電流を流し過ぎており、+B電圧が落ちて出力が十分に取れていないようであった。

 

 また、実験機ではチョークコイルによる電源フィルターではなく、ノイズ除去率(リップルリジェクション)の良いFETフィルターを採用しており、良い結果が得られたが、今の段階では信頼性が良くないので、今回はチョークコイルを再度用いる事にする。

 

 また、実験機を通して得られた事はカソードフォロア回路を数カ所用いているが、当初、動作がうまく行かなかった。

さらに、実験機の段階では、ドライバー部には無駄とも思えるようなPーK分割の出力に1段増幅を加えた回路で位相反転を行おうとしたがこれも最終的にはムラード型に変更した。

 

 上記についてはYahoo掲示板でいつもお世話になっているKrystronさんに多大なアドバイスをいただいた。この場を借りて感謝の意を表したいと思う。

 

 今回は、私の作成では通算7台目に当たるアンプであるが、3台同時に作成する予定である。 さすがにこれだけ作成すると、配線や部品の加工も慣れてきた。

最近、製作の道具にも凝るようになってきた。いつも、作業は発泡スチロールなどの台に乗せてトランス類に傷が付かないように作業していたのであるが、何かの拍子に落ちるとも限らないので、アンプ固定用の治具を作成した。大型のアンプ、小型のアンプにも仕様できるように幅を調整できるようにした。アンプを支える箇所は木材で作ったので傷も付きにくく、何せ格好が良く、やる気がわくというものである。(これは、かなり大事なことである)

 

シャーシはアルミ製で堅牢性に若干問題がある。このため補強を行なう。部品配置との兼ね合いも考慮しながら、私はH型に補強をいれるようにしている。

また、レイアウトの段階では、信号の流れを考えてレイアウトを行なうようにする。そうしないと無駄な配線が増えてくる。

この辺はアンプを作り始めたばかりの頃とは、やはり考えも違ってきている。

GNDの取り方については、ものの本では「一点アース」、信号線は「短く、太く」と大抵の人が言うが、私は疑問を持っている。

もっと外に目を付けるところがあるはずである。この辺は理論書を読んでその通りに作ってもうまく行かないことが多いと思う。

 第一、ギターアンプくらい増幅段が多いとどうやって一点アースなんかすれば良いのか?

信号の流れを考えるようにすると良いやり方が見つかるはずである。

 

 

今回、3台同時作成ということもあり、3台で信号ラインのコンデンサをそれぞれ変えてヒアリングテストを行い、差が出るようであれば、一番よいものを採用するとこにする。

候補は日立製フィルムコン、ERO、オレンジドロップである。ビンテージ物は確かによいが、現在でも容易に入手可能であることも目的のひとつである。

線材だけは、今までの経験上明らかに良いと思う50年代のWE(ウエスターンエレクトリック)製の物を使用する。

(一度は回路が決まった時点で贅沢に、AB抵抗、ビンテージ物のコンデンサ、トランス・・・などということもやってみたい気がするが、、いったいいくらかかってしまうことやら・・・)

 

パネル文字入れ開始、電源配線等

 

 パネルに印刷を施す。この工程は非常に気を使うが、これでアンプの顔が決まるといっても過言ではない。

 

 

 

かなり綺麗に仕上がった。こうなると、この後の作業もやりがいがあるというものである。

 

 

電源関係の配線を済ませ、ヒーターを灯す・・・・しばらくエージングを行い、同時に楽しむ。至福の時である。これぞ真空管アンプの醍醐味。

バックグランドには常にラリーカールトン、ロベンフォードを流している。こんな音になってほしいという願いである。

 

電源部の配線はこんな感じ。

 

20050915 音だし

 

もうすでに、5回程度音だしを行っている。なかなか思うような音質になってくれず、やきもきしているが、何とかギターリスト的な表現で言うところの「音の立ち上がり、ハジケル感じ、音域・・・」などが、私の中で電気回路の表現に苦戦しながらも翻訳され(いつも非常に苦しむところではあるが、最近慣れてきた・・)人に聞かせても恥ずかしくないレベルにきているので、紹介する。

 

 

 

セパレートバージョンのSOUL BREAKERです・・・

また、なかなか場所がないが、以前にお世話になった「CAVALLINO」の内田さんと、ハコバンの方々のご協力を頂き、夜中にもかかわらず、音を試すことができたことを、この場を借りて感謝します。

 

音源↓

 

ちょっとクランチ

クリーン

 

まだ、不具合はあるが、大体音の輪郭は固まりつつあり、狙った中域の太さは成功の予感である。

 

2005.10.10 1台完成

 

 連休にもかかわらず、ずっとスタジオ入り。完成したSOUL BREAKERの音決めを行っており、いよいよ閑静にこぎつけた。

 

フロントと、リアはこんな感じ。

フロントパネルは向かって左から「GAIN」、「BASS CUT」、「DEEP」,「JAZZ/ROCK」、「TREBELE」、「MIDDLE」,「SWEEP」,「BASS」,「MASTER BYPASS SW」、「MASTER VOL」、「パイロットランプ」である。このパイロットランプはJAZZモードの時は緑色、ROCKモードの時は赤に光る。また、JAZZモードとROCKモードはリアパネルにフットスイッチがついており、フットスイッチでも切り替え可能とした。

 

検討の結果、5AR4の真空管整流では電源のインピーダンスが高すぎパワーが取れないことがわかり、急遽ダイオード整流方式に切り替えた。

このため、6L6GCの3結でなんと50W弱を出力した。

シャーシ内部のスイッチにより、3結とウルトラリニアを切り替えられるようにしたが、3結でダンピングファクターを良くして無帰還にしたほうが(リアパネルのPRESENCE SWで帰還を0にすることが可能)素直なクリーンが得られることがわかる。

また、前面につけた3つのスイッチは色々検討し苦戦したが、最終的にはどれもかなり使えるSWだと思う。歌物のバッキングに適した軽い感じから、中域の詰まった存在感のあるクリーンまで、クリーンでこんなにバリエーションがあるのか?と思うほど色々音色を変えることができるようになった。

 

また、クリーンで音が裏返らずフィードバックするアンプとなった。これはダンブルライクなアンプの条件であると考えているのだが、技術的にどうしたらこうなるのかはよくわからない。

 

今回の音のサンプル(ES335)

 

製作開始から、ほかの事が手につかないほど悩まされたアンプであったが、完成し感慨深い。

 

 

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