これからの富士火山の活動 

1, はじめに
 富士火山は, 標高が 3,776m, 流出した溶岩の占める面積が約900km²あり, 円錐形をした雄大な成層火山である. その端正な姿の考察とこれからの噴火活動を推定する.

http://www2s.biglobe.ne.jp/~aaihara/61007fuji-2ia.jpg
図1.宝永第一火口壁のスパッターとアグルチネート.  
写真は、井上 勝氏が,6合目付近に生息するイワヒバリ(図2)など野鳥観察の折, 第一火口底から, 400mm望遠レンズ使用の高性能カメラで, 201610月撮影した.
表面の黒っぽい岩石:宝永噴火のスコリアなど
その下の灰白色の岩石:約2,200年前噴火(Yu-2)のスパッター
その下の柱状節理がある岩石:スパッターが溶結したアグルチネート

 

 
図2.  Prunella collaris  イワヒバリ 富士山六合目  全長18cm
 
図3. 国土地理院 1 : 25,000 富士山, 須走

2,  観察と考察
 約2,200年前の富士山頂噴火は, 規模が大きく, 降下テフラが広く分布する(Yu-2 湯船第2スコリア). このテフラは山頂火口からの最新の噴出物である.  その後, テフラや溶岩を噴出する富士火山の大きな噴火は側火山で起きている(町田1996.
 この山頂噴火で, 宝永火口付近から富士山頂までの斜面は, 山頂火口に近いので, 飛ばされたスパッターが降下しても高温で柔らかく, 互いにくっつきあって固まり, 急勾配になっている(中田1997. このようなスパッターが次々と重なって溶結した堆積物はアグルチネートと呼んでいる. 富士火山の山腹斜面の曲線美は, アグルチネートによる急勾配と御殿場岩屑なだれ(約2,900年前)などの跡を埋めたことによると考えられる.
 アグルチネートの下部は, 柱状節理が見られることから, 一度溶けて固まったようである. また, 柱状節理の下半分は,赤褐色をしている.これは, 高温が保たれ, 含まれる鉄分が酸化し, 赤鉄鉱ができたためである.
 この第一火口壁のアグルチネートは
, 崩れやすく, 大きな音と砂煙をあげて崩れるのを筆者は3回目撃した. 写真は, 201610月に発生した大きな崩壊のあとである.
 アグルチネートの堆積により, 富士火山の山頂は, 海抜高度が高くなり, マグマ溜りからの距離(図4のa)が遠くなった. また, 山頂周辺の斜面が急勾配になり, 斜面と火道との距離(図4のb)が小さくなり, 山頂付近の火道は冷えやすくなった.


図4. 富士火山の断面図.
  a富士山頂とマグマ溜りとの距離, b.斜面と火道との距離

 火道の中のマグマが高温で液体状態を保つには, 時々, 噴火活動があるか, 火道の中のマグマとマグマ溜りのマグマとの入れ替えが必要と考える. マグマ溜りのマグマを標高の大きい山頂火口まで持ち上げるのに必要な位置エネルギーが大きくなった. 2,200年前以後の山頂火口の噴火は 延暦19年(800年)などのように少量の火山灰を噴出する小規模な噴火であって, 貞観の噴火(864年), 宝永の噴火(1707年)など, 溶岩やテフラを噴出する大きな噴火は側火山の噴火である. これらのことから推測して, 山頂火口に近い火道のマグマは, 冷え固まってしまったと思われる. これからの富士火山の大きな噴火は側火山で起こると考えられる.
 筆者は, これからの富士火山の活動について、これまで噴出した富士火山の噴出物は大量であり, マグマ溜りのマグマの補充が追いつかず, マグマ溜りの圧力を保てなくなっていると考える. 箱根火山や伊豆大島の三原山のように, 富士火山は, 大きく陥没して,
 カルデラができると思っている.

引用文献

兼岡一郎・井田喜明 ―(編)―(1997):火山とマグマ. 火山噴出物と噴火の推移予測 中田節也 162p, 東京大学出版会.

町田 洋(1996):小山町史. 第六巻 原始古代中世通史編, 103-107p.


            トップページへ