アスペリティモデルと南海地震のシナリオ 「地震予知の科学」 日本地震学会 を推薦。

 南海トラフは、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界で、駿河湾から南西ヘ高知県の足摺岬まで伸びている。ここに発生する東海地震、東南海地震、南海地震は、連動して発生することが多く、マグニチュード(M)が8クラスの巨大地震になり、これが近く発生すると心配されている「南海地震」である。
 地震予知の研究で、海側プレートと陸側プレートの接する面で下記のようなことが分かってきた。 

1,アスペリティモデル
 沈み込む海側プレートと陸側のプレートの接する面は一様ではなく,@ゆっくりすべり域とAアスペリティ(Asperity)に分けられる。
 @ ゆっくりすべり域は割れ目が多く水を含んで滑りやすく、ふだんから地震は感じないが少しづつすべっている。
 A アスペリティ(Asperity)はぺったりと固着している部分で、固着度にもよるが、そこでは海側のプレートが陸側のプレートを引ずり込んでいる。

 このアスペリティモデルの考えはプレート境界で発生する地震現象をよく説明できる。
また摩擦の方程式で表現でき、シュミレーションまで可能になった。
 フィリッピン海プレートが東海地方の陸側プレートの下へ南東から北西方向に沈み込んでいる。
 南海地震はアスペリティモデルから推定すると次のようになる。

2,南海地震のシナリオ
 @ フィリッピン海プレートと陸側プレートの境界面は一部がくっついていてアスペリティとなっている。
 A フィリッピン海プレートの沈み込みに伴って陸側のプレートも引きずられ、東海地方の海岸部は沈降し、歪が蓄えられる。
 B 陸側のプレートに蓄えられる歪が限界に近づくと沈降のスピードが遅くなる。
 C プレートの境界で弱い固着部分がはがれ、ゆっくりすべりが生ずる。これを前兆すべりと呼んでいる。
   このとき、地面の歪、隆起、傾斜などの地殻変動が生ずると考えられる。
 D 前兆すべりが加速して、アスペリティの部分もはがれ南海地震の発生にいたる。

 このシナリオで特にCの地殻変動を歪計、GPS(Global Positioning Sistem)、地震計など東海地方の観測網で検出し、南海地震を予知しようとしているのである。

3,おわりに 
 静岡県御前崎から名古屋付近を中心に,陸側のプレートがゆっくりすべりをおこした(2002年)。この地域はふだん、フィリピン海プレートにひきずり込まれて、北西ないし西の方向へ移動している陸側のプレートであるが、普段と逆方向の東南東へ動いた。この動きは数年続き約8cmに達したが2005年には普通の動きに戻った。「東海スロースリップ」と呼ばれている。
過去の観測結果から,81年,87年にも同じ場所でゆっくりすべりが起きていた。巨大地震との関係、前兆すべりとの区別など研究課題のようである。
 一方で、南海地震は前兆がなく、突然起こるという考えもあり、心配されている。


地震予知の科学(日本地震学会)より