箱根火山

 箱根火山は久野久などにより、詳しく調査研究され、成層火山の一生を知る良い例とされてきた。
 箱根火山の一生は、初期の噴火活動で玄武岩質溶岩とテフラを交互に噴出し、富士山のような成層火山ができ、次にデイサイトや流紋岩質の溶岩を噴出する激しい噴火になり、大量の火砕流を噴出して、陥没し、カルデラが形成され、カルデラの中に中央火口丘ができるという、火山形成史と一致している。{下記(2)箱根火山の模式的発達}
 
「 その後の調査研究で、箱根火山は複数の成層火山とする、次のような新しい説が出てきた。
@古期外輪山を前期成層火山群(40万年〜30万年前)とし、それぞれ金時山火山体、明星ヶ岳火山体、深良火山体、山伏峠火山体、湯河原火山などからなるとしている。
Aまた新期外輪山を後期成層火山群(30万年〜25万年前)として、明神ヶ岳火山、丸岳火山、海の平火山などをそれぞれ独立した成層火山としている。
B成層火山群の活動とは別の火口を持つ単成火山群の活動もあった。」


ー前期成層火山群をマグマ溜りから考えてみる。ー

 マントルから上昇してきたマグマは、周囲の物質と同じ密度になった場所で停止し、「マグマ溜り」をつくる。 
島弧火山の直下数kmから数十km付近には、地震波の物理探査により、直径が10Km余りのマグマ溜りが推定されている。マグマ溜りでは火山性の地震が起こりにくい、また地震波を吸収したり反射したりする。(1997 中田節也)

 側火山(単成火山)は別だが、一つの同じマグマ溜りの噴火活動によってできる複成火山は、同じ火山としている。例えば、古富士火山と新富士火山は時代的に少し隔たりがあっても、同じマグマ溜りからの噴火と考え富士山としている。
 箱根火山の初期の噴火活動によって、前期成層火山群ができたという考えがあるようだ。
 前期成層火山群は金時山火山体、明星ヶ岳火山体,深良火山体、山伏峠火山体など複数の成層火山のようである。これらの成層火山に対応するマグマ溜りはどのように考えるのだろうか。マグマ溜まりを幾つも考えることは、場所の広さからして、不自然である。マグマ溜まりは一つと考えるべきではなかろうか。
 前期成層火山群のうち幾つかの成層火山は同じマグマ溜りから噴火したものと考えるべきである。
 或いは成層火山群の幾つかは側火山(単成火山)ではなかろうか。この地域はフィリピン海プレートの移動に伴う押す力を受けている。富士火山(側火山約80個)、大島火山(側火山約40個)などには北西ー南東方向に多くの側火山が分布している。同様に箱根火山には、中央部は陥没により不明だが、北西ー南東方向に星ヶ山、幕山など側火山が分布している。また、畑宿を中心として、北西ー南東方向へ岩脈が走っている。(Kuno1964年) 

 箱根火山の外輪山の外側斜面は全体的にみると、大きな火山の山麓に見える。その後の火山活動、陥没カルデラ、浸食などにより箱根火山の地形は大変複雑になっている。地表面の地質調査から全体を把握するのは難しい。
 湯河原火山は、南へ離れており、時代も古いので独立した成層火山と考える。また金時山は独立した成層火山という調査があり、時代的には、箱根火山よりもっと古い時代にできたとみるのと、箱根外輪山形成期にできたとみる二つの見解がある。前者の古い時代にできた成層火山と考えるのがよいと思う。
 久野久の箱根火山形成史は自然であり、中学生や高校生にはわかり易い。
 ご意見をお寄せ下さい。メールアドレス  aihara@mxz.mesh.ne.jp (2017年5月 相原)

 (1)箱根火山の写真と地質図

箱根峠から芦ノ湖、中央火口丘を撮した写真。
箱根火山
 箱根峠付近(古期外輪山)から芦ノ湖(カルデラ湖)、中央火
口丘を撮す。中央火口丘は右から二子山、駒ヶ岳、神山。
10/21,99
久野1950を簡単化、(「箱根火山」日本火山学会編より)
L:瑚成層、CC:中央火口丘噴出物、P:軽石流堆積物,
YS:新期外輪山溶岩、OS:側火山および古期外輪山溶岩類、
YV:湯河原火山噴出物、B:天昭山玄武岩類、A:須雲川安山岩
T:早川凝灰角礫岩、M:湯ヶ島層群

(2)箱根火山の模式的発達史

 久野久は詳しい地形・地質の調査によって、箱根火山の生い立ちを表す図を模式的に表した。(1950〜1952年)
今にいたるまで富士山のような成層火山の発達史の規範とされている。

@古期外輪山の形成

 箱根火山は約40〜50万年ほど前、現在の神山付近に噴火活動を開始した。この付近には、基盤である湯ヶ島層群やこれを覆う早川凝灰角礫岩、須雲川安山岩類などの堆積した高山が存在した。また南には湯河原火山、多賀火山、宇佐美火山などが並んでいる。箱根火山の噴火は、はじめ、玄武岩質溶岩を噴出し、次第に珪酸分に富む安山岩質溶岩を噴出するようになる。
 今の古期外輪山の大きさから推定すると、約25万年前には、高さ約 3000m の富士山のような成層火山であったと思われる。これが初期の箱根火山である。
 初期の箱根火山ができた頃、3枚の軽石流(OP)や厚い降下軽石(TS-AP,BP,CP)の噴出があり、大磯丘陵などで観察されている。多量の軽石流や降下軽石は陥没によるカルデラの形成の原因になったと思われる。(1977年町田)
 ・第一期カルデラの形成(20万年前) 
 成層火山の中央部が陥没し、巨大な凹地ができた。この地形をカルデラ(caldera)と呼ぶ。カルデラの直径は、噴火口の直径(1kmを越えない)に比較してはるかに大きいのが特徴である。(箱根火山のカルデラは直径が8〜12kmある)カルデラの陥没から取り残された周囲の山並みを古期外輪山(somma)と呼んでいる。

箱根火山の構造と活動の経過を説明する模式図(初期の箱根火山) 箱根火山の構造と活動の経過を示す模式図(第一期カルデラ)
久野は初期の箱根火山(25万年前)を一つの成層火山とした。 第一期カルデラ(20万年前) 成層火山の中央部が陥没した。

A新期外輪山の形成

 古期外輪山が出来た後、しばらく噴火は止まり浸食が進んだ。13万年前、再び活動を開始し、珪酸分の多い石英安山岩溶岩がカルデラを埋めて楯状火山ができた。溶岩の厚さは数mから150mに達する。
 7万年前から4.5万年前にわたって楯状火山の中央部から、大量の軽石流を噴出する活動が始まった。軽石流は高熱のマグマと多量のガスが混ざったもの(熱雲)が斜面を高速度でくだる現象で火砕流とも言う、被害をもたらす恐ろしい噴火である。。マルチニック島のモンプレー火山や九州の普賢岳でも起きている。箱根火山が噴出した軽石流の体積は約10km³に及び、東は横浜南西部(約60km)にまで達し、西は御殿場から三島を覆い愛鷹山の南麓まで追跡できる。
・第二期カルデラの形成 軽石流の噴出は繰り返し行われ、そのたびに中央部が陥没し、第二期カルデラができ、周囲の山並みを新期外輪山と呼んでいる。軽石はデイサイトないし安山岩である。

箱根火山の構造と活動の経過を示す模式図 箱根火山の構造と活動の経過を示す模式図(第二期カルデラ)
楯状火山の形成と軽石流(4.5〜13万年前) 第二期カルデラ(4,5〜7万年前)

B中央火口丘の噴火

 箱根火山には北西から南東の方向に断層が走っている、これを金時-幕山構造線と呼んでいる。
 4.5万年前から、第二期カルデラ内の金時ー幕山構造線にそって噴火活動が行われ、台ケ岳・神山・陣笠山・駒ヶ岳・二子山(約5000年前)など7個の火山が次々とできた。このようなカルデラの中に新しく生まれた火山を中央火口丘(central cone)という。箱根火山の中央火口丘の溶岩はほとんどシソ輝石安山岩である。
 

現在の箱根火山の地質断面図
ボーリング資料によると、カルデラ内の古期及び新期外輪山溶岩は薄く、カルデラ形成後浸食されている。

(5)箱根温泉

 今から3100年前、神山の山腹で水蒸気爆発(steam explosion)がおこり、神山の北西部が崩壊し、その土石流が早川の上流部をせき止め 芦ノ湖 が形成された。その他、冠ケ岳(約3000年前)なども新しい活動である。このように箱根火山は寿命の長い火山である。大涌谷のような噴気活動もあり、まだマグマのエネルギーを持っている活火山である。
箱根山は観光地として、その山麓は住宅地として、開発が進んでいるので心配である。
箱根には多くの温泉がある。泉質から上げると、大涌谷、早雲地獄、湯の花沢などは硫酸イオンが多く、小涌谷、強羅、二ノ平、宮ノ下は食塩を多く含む温泉である。