ES細胞とiPS細胞そしてiN細胞、Muse細胞高校生へ 2011年8月5日 更新

祝 山中教授 ノーベル賞


動物の発生と分化(高校の生物)でウニやカエルの発生について学びます。
1つの受精卵は卵割を繰り返す細胞期→桑実胚期→胞胚期→のう胚期→器官の形成→幼生を経て成体になります。
このように、1つの受精卵が脳、心臓、肺、皮膚・・・・などをつくる異なる細胞になることを細胞の分化といいます。
分化した細胞は他の部分の細胞にはなれない。例えば皮膚細胞を脳細胞にすることはできないということです。
しかし、受精卵はどんな細胞にもなれる細胞ですね。このような細胞を万能細胞といいます。
ところで、もしヒトの細胞で万能細胞をつくることができれば医療の面でとても役立ちます。
今、研究されている万能細胞にはES細胞とiPS細胞があります。

ES細胞(embryonic stem cells 胚性幹細胞)
これは、受精卵が卵割したある段階で細胞を取り出し、培養して万能細胞をつくる方法です。マウスでは成功しているようです。

特徴
@ 人間になる可能性のある受精卵を使うので倫理的問題があります。
A ある女性の治療に、その人の受精卵を使ってES細胞をつくっても、男性の精子が入っているので拒否反応が起こります。


iPS細胞(induced pluripotent stem cells 人工多能性幹細胞)
京都大学の中山伸弥教授らがヒトの皮膚細胞を使って万能細胞(iPS細胞)をつくるのに成功しました。
ヒトの皮膚細胞をとりだし.これに4つの遺伝子を導入してiPS細胞をつくる方法です。

特徴
@自分の細胞でつくったiPS細胞ならば移植しても拒否反応が起こらない。
A導入する4つの遺伝子の中にがん化を引き起こしやすい遺伝子があるそうです。
 がん化を防ぐ研究がされているようです。
 
iPS細胞は機能しなくなった組織に移植する再生医療につながると期待されています。
神経細胞をつくって脊髄損傷の治療に使うとか、インスリンを分泌する細胞をつくり糖尿病の治療に使うなどさまざまな動物実験がされているようです。早く治療に使われるようになるとよいですね、


iN細胞 (皮膚細胞から神経細胞
アメリカのスタンフォード大学の研究グループはiPS細胞を使わずに、マウスの皮膚細胞から直接、神経細胞(iN細胞)を作ることに成功したそうです。(2010年1月28日 英科学誌ネイチャー)
体細胞を直接、いろいろな組織の細胞に変えて移植できれば、安全性の高い、新たな治療手段として期待できます。


頑張っている日本の研究

羊膜からiPS細胞をつくる。(2009年11月16日発表)
胎児を包む羊膜を使って効率よくiPS細胞をつくることに、京都大学の多田高准教授らが成功し、
ヒトでもマウスでも確認された。皮膚細胞を使うより、iPS細胞ができる率は10倍以上だそうです。

新たに2特許(2009年11月26日 朝日新聞)
その1、体細胞へ導入する遺伝子について、がんを引き起こしやすい遺伝子を使わず、3つの遺伝子を入れてより安全なiPS細胞をつくる方法。
その2、iPS細胞を使って、心筋などの細胞をつくる方法です。これは移植治療につながる重要な特許です。

心筋細胞を99%以上の純度で精製(2009年11月29日 ネイチャー・メゾッズで発表)
慶応大学医学部の福田恵一教授らは、iPS細胞やES細胞からできた細胞の集まりの中に、ミトコンドリアが蛍光を出す色素を入れて、ミトコンドリアを多く含む、心筋細胞を光らせ、99%以上の純度で、心筋細胞を精製するのに成功した。
心臓移植が必要な患者の治療に一歩近づいた。

iPS細胞の培養に新しいフィーダー細胞(2009年12月2日 米科学誌プロスワンに掲載)
京都大学 山中信弥教授らは、iPS細胞に栄養を供給する細胞(フィーダー細胞)を同じヒトの皮膚細胞からつくり、このフィーダー細胞を使った、iPS細胞の培養に成功した。
iPS細胞を増やすのには、iPS細胞とフィーダー細胞を一緒にして培養するようです。

羊膜からiPS細胞をつくるのに必要な3つの遺伝子(2009年12月10日 日本分子生物学会)
横浜のバイオベンチャー企業、杏林大学、国立ガンセンターなどの研究グループは羊膜からiPS細胞をつくるのに必要な4つの遺伝子のうち3つの遺伝子は、既に羊膜の幹細胞に存在していることを突き止めた。iPS細胞のがん化が抑えられる可能性がでてきた。応用に向けた研究が進められているようです。

Muse細胞 (2010年4月 米科学アカデミー紀要電子版に発表)
東北大学の出沢真理教授らのチームは京都大学と共同研究で、ヒトの骨髄や皮膚から幹細胞を直接取り出すのに成功し、Muse細胞と名付けた。
ヒトの骨髄と皮膚の細胞をばらばらにする薬品につけた後、培養し、Muse細胞を取り出すのに成功した。このMuse細胞をマウスに移植し、神経、皮膚,筋、肝臓などさまざまな組織の細胞になることを確認した。Muse細胞は遺伝子を組み込む操作がないので、がん化の心配が少ない。

神経幹細胞を移植(2010年8月16日 米科学誌)
奈良先端科学技術大学院大学の中島欽一教授らグループは脊髄が傷ついて、下半身がまひしたマウスに神経肝細胞を移植し、抗てんかん薬(バルブロ酸)を注射して、治療すると,約7割が歩けるように快復した。

マウスの体内でラットの臓器を作製(2010年9月3日 米科学誌)
東京大学の中内啓光教授らはiPS細胞を使い、マウスの体内でラットのすい臓をつくるのに成功しました。
これは人間のiPS細胞を使って、人間の臓器をブタやサルなどの体内で作らせ、人間に移植する再生医療に応用できると期待されます。

ダイレクト・リプログラミング(2011年4月末 米科学アカデミー紀要)
米グラッドストーン研究所のシェン・ディン研究員らは皮膚などの細胞をiPS細胞にせず、直接、必要な細胞に作り替える「ダイレクト・リプログラミング」に成功した。この方法は、作製が手軽でがん化のリスクも少なく、下記のように、研究が盛んです。

米スタンフォード大学;マウスの皮膚細胞から神経細胞を直接作製。
カナダの研究グループはヒトの皮膚細胞に1つの遺伝子を入れて前駆細胞をつくり、赤血球や白血球を作ることに成功。
大阪大学の妻木准教授らが、マウスの皮膚細胞から軟骨細胞のダイレクト・リプログラミングに成功。
慶応大学の家田講師らは心筋細胞のダイレクト・リプログラミングに成功。
九州大学の鈴木淳史准教授は肝臓細胞のダイレクト・リプログラミングに取り組んでいます。

マウスのiPS細胞、ES細胞から精子をつくる。(2011年8月5日、米科学誌)
京都大学の斉藤道紀教授、林克彦講師らグループはオスのマウスの皮膚の細胞から始原生殖細胞をつくり、この細胞を先天的に精子をつくれないマウスの精巣に入れたところ、精子ができた。
この精子を使って体外受精させて、マウスを生ませるのに成功した。
しかし、人間への応用には技術的および倫理的観点から課題が残っている。

がんや感染症の治療に期待(2013年1月4日、米科学誌セル・ステムセル)
理化学研究所の河本宏チームは皮膚がんの患者の免疫細胞(T細胞)を山中因子を使って初期化し,
iPS細胞を作り、再び免疫細胞に戻すのに成功した。
東京大学の中内啓光チームはエイズウイルスに感染した患者の免疫細胞を山中因子を使って同様の実験で免疫細胞を作るのに成功した。
この方法では若返った免疫細胞(T細胞)を何万倍も量産できる。がんやエイズウイルスの大変有効な治療方法に違いない。

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