火山噴火の予知と噴火警戒レベル

 火山噴火の前兆現象 2017年2月23日 

 地震の予知は大変難しい。東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)のように、M 9の巨大地震が突然発生し、大被害が発生した。
しかし、ある火山が何の前触れもなく大噴火をして、多数の死者がでたという例は近年ない。火山噴火が近づくと、いろいろな前兆現象が発生し、人々は避難するからである。しかし、過去にはイタリアのベスビアス火山噴火(79年)、西インドシナ諸島マルチニーク島のプレー火山の噴火(1902年)では火砕流に覆われ多くの人が亡くなった例もある。前兆現象の観測が重要である。

 
Paricutin Volcano

 前兆現象が発生したとき、気象庁は躊躇せずに、噴火規制レベルを公開し、規制や避難を徹底すべきである。火山噴火の予知は外れることが多い。外れると旅館、商店などは、一時的な経済的損失を生ずるが人命には変えられない。噴火予知が外れたならば、噴火しなくてよかったということである。気象庁は気にすることはない。
 火山噴火の予知は 長期的な予知と噴火が近づいた時の短期的な予知に分けられる。

1.長期的予知

 富士山が何年後に噴火するというような予知は、まだ不可能である。過去の噴火を調べ、1万年以内に噴火した証拠がある火山噴気活動している火山を日本では活火山とし、噴火を予知しようと観測をしている。

 
常時観測している活火山

 
 日本国内にある活火山は110あるが、気象庁が常時観測している活火山は約半分である。平常時から観測していないと、火山活動の変動を把握できない。

 静岡県にある活火山は富士山、箱根火山、伊豆東部火山群である。
宝永大地震の一か月半後、富士山は1707年(宝永4年)に噴火した。富士山のマグマ溜まりの状態はよく分からないが、マグマでいっぱいになっていると、次の東海地震、東南海地震、南海地震が連動すると富士山が噴火するかも知れない。

 鍵層となるような、広域に分布する火山灰は、過去、巨大噴火があったことを物語っている。マグマ溜まりから短期間に大量マグマを噴出すると、マグマ溜まりに空隙ができ、陥没してカルデラができる。このような巨大噴火をカルデラ噴火という。カルデラ噴火には箱根火山、阿蘇火山、鬼界カルデラなどがある。

 鬼界カルデラは鹿児島から南へ100Km付近にある。約7300年前、この付近にあった火山島が巨大噴火し、島の大部分は失われて海底に陥没カルデラができた。噴出したマグマは100立方Km 程である。この時、幸屋火砕流が発生し、その一部は海上を渡り、大隅半島や薩摩半島へ上陸した。大津波も発生し、津波の跡が島原半島などに残っている。噴出した火山灰はアカホヤ火山灰と呼ばれ、鍵層として各地に分布する。
 このカルデラ噴火に襲われた九州や四国の縄文人はどうなったか? アカホヤ火山灰層の上下の地層から出土する縄文土器の様式が大きく異るのは何を物語っているか。

 
鬼界カルデラ(赤の破線)
(地図の竹島は領土問題になっている日本海の竹島ではない。)

 幸屋火砕流 Koya pyroclastic flow deposits
鬼界アカホヤ火山灰 Kikai-Ah ash-fall deposits


 島弧火山帯の日本列島に、100立方Km を超えるマグマを噴出するカルデラ噴火は、1万年に一回程度発生している。鬼界カルデラができた7300年前から、カルデラ噴火は発生していないのである。

2.短期的予知

 火山噴火が近づくと、噴火の前兆現象として、群発地震、マグマの動きを示す低周波地震(※1)、山体の膨張、マグマの熱により、地下の岩石の電気抵抗や地磁気の変動などが発生するので、ある程度予知ができる。

3.火山噴火の例

 火山噴火の前兆現象は火山によって異なるので、噴火例を上げてみる。

例1、伊豆東部火山群の手石海丘:伊東市の沖合で1989年6月群発地震が発生し地表面変異、井戸の水位や温泉の湧出量に変化なども発生し、7月13日、海底に噴火活動が始まり、周囲からの高さ10m、火口の直径200mの海底火山(手石海丘)ができた。

例2、桜島火山1955年から活発な噴火活動を繰り返しているが、次のように進行する。
マグマの上昇により火山体が膨張し地震の震源が深部より次第に浅くなり、火口直下で地震が起こるようになると、火山噴火が始まる。

例3、伊豆大島1986年11月の噴火では、噴火の3ヵ月前から三原山火口周辺の地磁気や地下岩石の電気抵抗が異常に減少したり、火山性微動が発生するなど前兆現象が観測された。

例4、北海道の有珠山 :有珠山の噴火は過去の観察から、群発地震発生から数十時間から一週間程後に噴火するということが分かっていた。2000年3月27日から、有珠山直下で群発地震が始まり、緊急避難の勧告がでて、噴火前に16000人の住民が避難した。有珠山の噴火は3月31日に始まったが、一人のけが人も出なかった。

例5、浅間山 :2009年2月2日、土地の傾斜や地震が観測され、マグマの上昇を知り、気象庁は噴火の13時間前に噴火警報を出した。

例6,御嶽山
御嶽山は78万年前に噴火活動を始め、6000年前頃まで噴火を繰り返していた活火山である。2014年9月27日11時52分噴火開始、直径数十cmの噴石が火口から1.5Km範囲まで飛んできた。山頂付近にいた多くの登山者が被害を受け、死者58名、行方不明者5名を出した。
 2014年9月10日には山頂直下に地震が発生し、1日の発生数が50回を超えた。(この段階で噴火警戒レベルを1から2へ上げて、登山を禁止すべきであった。)9月11日には80回と回数が増えた。その後、地震の回数は少なくなったが、地震は続いた。9月27日11時41分火山性微動が始まり、噴火を開始した。

  
例7 マルチニーク島のプレー火山(Mt Pelee) : 1902年の噴火では、火砕流が海岸にあるサンピエールの町を襲い、一瞬にして約3万人が犠牲になった。
火砕流は高温の溶岩の破片、火山灰、火山ガスなどの混合物が斜面を高速で流れ下る現象である。(普賢岳でも発生した。)
プレー火山は1902年4月25日噴火活動を始めた。噴気活動や火山灰の噴出があり、危険な状態にあった。しかし、サンピエールは安全であるという報道もあり、町の人たちは避難が遅れてしまった。
1902年5月8日 火砕流がサンピエールの町を覆ってしまった。町の生存者は3名だけであった。

例8 メキシコのパリクチイー火山(Paricutin Volcano) :火山噴火は、これまで噴火したことがある火山や複成火山の側火山として、或いは単成火山群の中などで起こる。
火山がないところで噴火活動が始まり新しい火山ができることは珍しい。
1943年 高原の村では噴火の15日程前から地震が頻繁に起こり、遂にトウモロコシ畑に割れ目噴火が始まった。
それから、9年間、溶岩とテフラを噴出し、近隣の二つの村は溶岩で埋まったが、死傷者は出なかった。高さ424mの火山が誕生した。

例9 北海道の十勝岳噴火:前年から小さな噴火を繰り返していた十勝岳は1926年5月大規模な噴火をした。高温の岩屑なだれが発生し、土砂と雪を溶かした大量の水が泥流となって、時速約50Kmで、美瑛川と富良野川を流れ下り、下流の集落を襲った。美瑛と上富良野の住民は逃げる間がなく、144人の犠牲者をだした。
 
例10 長崎県の雲仙普賢岳: 1990年11月17日水蒸気噴火があったが、12月一旦沈静化した。
1991年2月12日マグマのかけらを含むマグマ水蒸気噴火に規模を拡大した。5月になるとマグマの上昇により、山体の膨張が確認された。5月20日 マグマは山頂に達し、溶岩ドームをつくり、成長を続けた。5月24日溶岩ドームの一部が崩壊し、火砕流が発生した。その後、火砕流は連日発生し、この火砕流を撮影しようと、北上木場町で待ち構えていた人達43人を呑み込んだ。

4.噴火警戒レベル

 活火山の噴火が始まりそうな時や始まった時、どう対処したらよいかの判断の根拠に、気象庁は噴火警戒レベルを導入し、警報を発することになっている。
噴火警戒レベルは、レベル1の火山活動は静穏から、レベル5の重大な被害を及ぼす噴火が発生までの5段階になっている。

・噴火警戒レベル5:居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生、あるいは切迫している状態にあり、居住地域から避難が必要である。
・噴火警戒レベル4:居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が予想される。居住地域での避難準備、要援護者の避難。
・噴火警戒レベル3:居住地域の近くまで重大な影響を及ぼす噴火が発生、あるいは予想される。登山禁止、入山規制、危険な地域への立ち入り規制。
・噴火警戒レベル2:活火山が噴火し、あるいは噴火が予想され、火口周辺が危険になり、火口周辺への立入り規制。住民は通常生活。
・噴火警戒レベル1:火山活動は静穏。あるいは火口内に火山灰等の噴出が見られる。


 ※1:富士山の低周波地震については 2.富士山の噴火活動の「活火山」に説明がある。富士山の低周波地震の観測は1976年頃からであるが、2000年末に観測史上最多を記録した。2000年9月から増えはじめ、10月には133回、11月には222回、12月には144回、2001年になって1月、2月、3月は50回以下に減少したが、4月から増えはじめ、5月には164回と増加した。
 富士山の低周波地震の起こり方は頻繁に発生する活動期とあまり発生しない静穏期を繰り返している。過去の活動期は1987年、1989年、1997年から1998年などである。活発な時期は数ヶ月続くのが特徴である。
 低周波地震の観測の歴史が浅いので、よく分からない点があるが、今度の活動期が富士山の噴火につながるとは考えられない。しかし、富士山の下にあるマグマ溜まりのマグマが増加するなどの現象が起きているのかもしれない。
 富士山の低周波地震がどのような仕組みで発生するのか定説はないが、マグマ溜りの中でのマグマの動きや、マグマの増加などによる応力が、その周辺の岩盤に作用して生ずると私は思っている。もしマグマがマグマ溜りから出て、岩脈状に貫入をはじめると、普通の群発地震が発生し、土地の傾斜などの地殻変動も生じ、富士山の噴火につながる。今のところそうした現象はみられない。いずれにしても地震や傾斜変動の密な観測網の整備が必要である。いつかは噴火するであろう富士山麓の開発はしない方がよい。

火山以外でも低周波地震: 阪神大震災後、防災科学技術研究所が全国約500箇所に設置した高感度の地震観測網のデータから、火山とは関係ない場所でも低周波地震が発生していることが分かってきた。
 長野県南部から豊後水道にかけての長さ約600kmの帯状地域には、深さ20〜30km付近に多発している。これらの低周波地震の原因は沈み込み帯で脱水分解反応で生じた水の動きに関係していると言う見方がある(1、富士山の地質と火山 (4)マグマについて 沈み込み帯を参照)