駿河湾の蜃気楼  中学生、高校生の皆さんへ  2014年1月18日  作成途中

1.はじめに
 友人のカメラマン古山氏、片山氏から、静岡県沼津市牛臥や沼津港の海岸から撮したという海へ没する「だるま夕日」の写真が送られてきた。(写真2、3、4)
 牛臥海岸から海を見ると、駿河湾は陸地に囲まれ、海と空との境の水平線は見えないはずである。地図の上からも分かる。 牛臥海岸から見える海へ没する「だるま夕日」は冬にしか見ることができない珍しい蜃気楼(しんきろう)のようである。光の屈折や反射を使って考察してみる。

2.水平線

 糸におもりを吊るした方向の線を鉛直線という。鉛直線と直角な水平方向の線が水平線である。大工さんは水平方向を調べる道具を持っている。地層を調べるクリノメーターは鉛直方向や水平方向を調べることができる。
 天気が良い、大気が澄んだとき、海岸などで沖合を見ると海と空の境の水平線と、海と陸との境の水平線が見える。水平線は直線に見えるが、地球は球体(正確には楕円体)なので、ジェット機などで、約9,000m上空へ行くと水平線が丸みを帯びて見えるそうだ。
大きな船が水平線の彼方へ遠ざかるとき、船の下の方から見えなくなるのを地球がまるい証拠にした時代もあった。


写真1 牛臥海岸(沼津市)から撮した駿河湾の水平線、2014年01月12日
向かって左手、伊豆半島の先端は西浦の大瀬崎である。
大瀬崎の右は大井川付近の陸地が見えるはずだが、霞んでいて見えない。 
右の霞んだ陸地は日本平付近だと思う。

3.光の屈折

光が暖かい大気(密度が小さい)から、冷たい大気(密度の大きい)へ入って行くとき、また逆のとき、図のように屈折する。
光が暖かい大気から冷たい大気へ入るとき⇒入射角θ1より屈折角θ2は小さい。
光が冷たい大気から暖かい大気へ入るとき⇒入射角θ1より屈折角θ2は大きい。

 
図1

4. 蜃気楼

 大気中の気温分布や含まれる水蒸気量の違いにより、大気の密度が海面からの高さによって変化し、光の屈折がおこり、蜃気楼が発生する。

「蜃気楼S1」.夏の強い日射で熱せられた地表や暖かい海水などに大気が接して、地表や海面近くの大気の温度が高くなったとき発生する蜃気楼。
・砂漠などで、水があるように見え、近づくとなくなる現象。(逃げ水)
・遠くの物が近くに見える現象。

・実例:駿河湾の陸地へ没するはずの夕日が近くの海へ没するように見える現象。

「蜃気楼S2」 低温の地表や海面へ大気が接して、地表や海面に接した下層の大気の温度が低くなったとき発生する蜃気楼。
・地上の物体が浮き上がって見える現象。
・実例:富山湾の景色が浮き上がって見える蜃気楼。


5.冬、海へ沈む蜃気楼の夕日

 冬の季節、牛臥の海岸から観察すると、太陽は陸地へ没するはずなのに海へ没するように見えることがあるのはどうしてか、考察してみる。
 駿河湾は暖流の黒潮が入ってきて、海水の温度が大気の温度に比較して高い。この暖かい海水に接した大気が暖められ、駿河湾の大気の温度分布は海面に近い下層で気温が高く、上層で気温が低くなる。
 図2を参考にしてください。牛臥海岸の観測者に届く太陽からの光線は光の屈折によって、茶色の線のように下へわん曲した光線になる。(図2参照) 牛臥の観測者は太陽からの光線が曲がっていることは分からないので、図2の青い直線を延長した近くの海へ、虚像の太陽が沈んでいくように見えるのである。この虚像の太陽も蜃気楼の一種である。(蜃気楼S1
太陽が沈むのは速いので、超高速の船で、この虚像の太陽を見に行くと、逃げていくに違いない。「逃げる虚像の太陽」である。

6.だるま夕日

 
 だるま夕日の現象は湖面に写る逆さ富士に似ている。蜃気楼が発生しているとき、虚像の太陽は近くの海へ沈むので、逆さ富士のように、逆さ太陽が海面へ写ったものと考察できる。なお蜃気楼が発生しているとき、水平線が海と空、あるいは海と陸の何れの境でも、だるま夕日は発生するはずである。
 写真6 だるま夕日の写真をよく見ると、浮き上がった水平線(白い線)があり、その下に、逆さ太陽や逆さ雲が映っているのに気付く。この浮き上がった水平線は蜃気楼(蜃気楼S2)である。浮き上がった水平線の蜃気楼は海面近くに密度の大きい大気があることを示している。大気の温度は暖流に熱せられて高いので説明できない。海面近くの大気の密度を上げる他の原因は海水から蒸発した水蒸気が考えられる。冬の大気は乾燥しているので、海水の蒸発が盛んで、海面に接した大気は水蒸気を含んで密度が大きくなったと考えられる。(図4参照)

 
写真2、牛臥海岸のダルマ夕日 2013年12月16日
近くの波までピントが合っているので、
虚像の太陽が近くにあることが分かる。
 
写真3、牛臥海岸のダルマ夕日 2013年12月21日

写真4 沼津港からのだるま夕日 2013年12月22日      
 
図2 夕方の太陽からの光線が屈折する説明図
局部的に調べていけば、下へわん曲した光線になる。
 
写真5 白い線は浮き上がって見える蜃気楼の水平線。
蜃気楼の水平線の下へ逆さ太陽や逆さ雲がうつっている。
 
写真6 2014年1月12日、この日、太陽は写真のように水平線の上の大井川付近の陸地へ沈んだ。
15時頃から風が強くなり、大気が撹拌され、気温差がなくなったため、蜃気楼は発生しなかったのである。


7.富山湾の蜃気楼

 富山湾は周辺の雪山からおりてきた冷たい大気が海面を覆い、大気の温度分布が海面に接した下層で気温が低く、海面から離れると高くなリ、牛臥の場合と逆になる。
対岸の建物などからの青色の線で示す光線は上にわん曲する。富山県魚津市から観察すると光線が湾曲していることは分からないので、茶色の直線を延長した方向に建物などが浮き上がって見える。「蜃気楼S2」
富山湾の蜃気楼の写真はインターネットで検索すると沢山見ることができるので、調べてみて頂きたい。


図3

8.考察のまとめ

冬、駿河湾で発生する「だるま夕日」は蜃気楼S1蜃気楼S2がかさなって、発生しているようである。駿河湾の大気の温度分布は図4のようになっていると考えられる。
@陸地へ没するはずの太陽が海へ没するように見えるのは、図4の原因が気温の変化により発生する蜃気楼S1と思われる。
A水平線が浮き上がって見える「だるま夕日」は海面に近い、原因が水蒸気を多く含む大気の中で発生する蜃気楼S2と思われる。

 
図4 大気の鉛直方向の密度分布

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