2009年、四国八十八ヶ所巡りの途中、徳島県の秘境祖谷の限界集落で出会ったかかし(人形)350体余りは口を開くことこそできなかったが、その姿は雄弁に名頃集落への郷愁を物語っていた。一人の女性が作り始めたという人形は、廃校になった教室にも置かれ子どもたちの声が聞こえてくるほどだったし、停留所ではもう来るはずのないバスを待つ村人が談笑していた。 近くで農業を営む知人が人形作りを始めたので、もの言わぬ「優しい人たち」の表情を写させてもらった。ファインダーを覗いているとお話したいことがいくらでもありそうで、わたしはその思いを写し止めたが十分だったか。 あれから13年が過ぎて、祖谷の人形たちは元気に過ごしているだろうか。野ざらしの人形は3年も経つとぼろぼろになってしまうそうだ。作者は70歳をとうに越えたはずだから、いつまで村人の分身を作り続けられるか、心配だ。 人形が集落から消えた時、名頃は自然に帰っていくのだろうか。その時、人形たちの魂はどこへ行くのだろうか。 そういえばスイスにもあったなあ。木製だったけど。これはハイジの村レストランの庭にあったもの。 |