ウソ丸見えストーリー 6号

その弐「ビリジアン大いに唱う」(第三話)


今までフルーツ大統領のメンバーでは、スキヤキやCOWCOW・多田、そして小藪自身もちょこちょこアルバイト雑誌のテレビコマーシャルに 出演していたが、この度メンバーが総出演でCMに出れることになった。ただ、神戸は三宮にある小規模なジュース屋の宣伝ということで、 大きな広告代理店が入るわけではなかった。放映される範囲もUHF局一局だけ、かなり小規模のようである。
マネージャーから、娘がフルーツ大統領ファンだという縁でイメージキャラクターに自分たちを選んでくれたその店のオーナーを紹介され、 小藪たちフルーツのメンバーもコンビごとに挨拶した。オーナーは集まっているフルーツ大統領がどういうものなのかやっと理解できたらしい。 小藪は他のメンバーよりもちょっと長めに見つめられていたような気がする。「な・・・長い・・・。」オーナーはそのようにつぶやいていた。
「エー、私どもの店は、はっきり言って予算がありません。場所こそ神戸の一等地にはありますが、地元の弱小企業です。それなりのつもりで 望んで下さい。ギャラもあまり期待しないで下さい。ウッシャッシャッシャッシャッ・・・」と、さらにオーナーは訳の分からない笑い声ととも に無責任な発言をした。
「えっ・・・」コマーシャルの仕事はギャラがいいと思っていたものだから、オーナーが目の前にもいるにもかかわらず、フルーツ大統領の面々 の表情はあからさまだ。小藪は、ちょっと前の雑誌のインタビューでフルーツのリーダーだと自分で言った手前もあり、
「せっかく仕事もらえたんやから、何事も精一杯がんばろうや。」と周りによく聞こえるように言った。
その後、オーナーからコマーシャル撮影についての説明があった。
「一組二秒ずつ、六組いらっしゃるということなので、十二秒ですね。残りの三秒は全員で、トータル十五秒でやってもらいます。格コンビで うちの商品のジュース一種類ずつ二秒で紹介してもらいます。どんな紹介の仕方かと言うと、『ストロベリー』なら『ストロベリー』と言って、 その味を体で表現して下さい。その辺はお任せします。生の果物とかジュースとかいろいろ準備しますので、自由に使って下さい。」その後、 どのコンビがどのジュースを担当するのか発表があった。
おはようは、朝のイメージでストロベリー、COWCOWはパイン、スキヤキはバナナ、シンドバッドはメロンでブラザーズはミックスジュースとい うことだ。
「あのぉ、俺たちビリジアンは・・・?」「ビリジアンさんなんですが、うちの店の新製品でこの夏、力を入れて売っていこうというのをやっ てもらいたいのですが・・・モロヘイヤ。」「モロヘイヤ?」「えぇ、怖いもの見たさで飲んでみるお客さん多いんですよ。体にもいいですし ね。それでクセになってる常連のお客さんもなかなか多くってねぇ。」「ねばねばーってなりますやん。」と小藪が言うと、「えぇ、それがク セになるんだそうです。ま、ビリジアンさんはそれを担当して下さい。」
今からもう撮影に入るそうだ。着ているものも今のままでいいらしい。小藪はだたの打ち合わせだと思って集まったので、普段着のままだった。 他のメンバーもそうだ。もともと舞台衣装も普段着とたいして変わらないのだけれども、一応「ここぞ」という時には、黒白の横縞のシャツと 決めていた。今日はその服じゃないので、本領を発揮できないような気もするのだが、もう撮影に入るというからしょうがない。場所も特別 にロケに行くとかではなく、NGKスタジオでやるそうで、マネージャーから撮影の説明があった。
「最初に全員の写真を撮ります。それからコンビごとの写真撮影をしますから。その後で、声だけ録音します。」なんだかいきなりだけれども、 今日は写真撮影と録音だけらしい。ビデオの撮影は後日なんだろうなぁとぼんやり考えながら、みんなとスタジオに移動した。それにしても 写真、何に使うんだろう。ポスターでも作るのかな?後日のビデオは撮影の時は、また今日と同じ服を着てこないといけないのか、ちょっと それは心外だけどしょうがないか。

NGKスタジオに移動すると、マネージャーが、「はい、全員の撮影にはります。じゃあ、こちらに並んで。」と言われたがセットらしきも のがない。あるものと言えば、吉本新喜劇で使ったものの再利用としか考えられない、いろんな店の絵が描かれているベニヤ板みたいなもの が立てられていて、そこのライトが当たっている。並び方は適当で、なんだか若くて健康的な雰囲気が出ていればいいらしい。移動するなり、 いきなりの撮影だ。
「はい、笑って、笑って。」なんか、きちんとしたプロのカメラマンが撮影しているのかと思ったら、カメラを持っているのはマネージャー ではないか。しかも、持っているカメラは写るんです。う、このカメラに向いて笑えというのだろうか。まぁさっき全員の前で頑張ろうと 言ったから笑うしかない。
「はぁい、こちらを見て下さい。一たす一は?」そんな記念写真と勘違いしているマネージャーのもと、全体の写真撮影は終了して、今度は コンビごとの撮影だ。おはようから順番に撮影しているのを他のコンビ全部で見ている。ギャラが安いことが分かったためか、他のメンバー は適当に手を抜いている。
例えば、おはようの二人は頭のてっぺんで両手でハートマークをを作って「ストロベリー」とか言っているし、COWCOWは多田が嬉しそうに、 興志の顔の上をパイナップルの皮ごと転がして喜んでいる。スキヤキは土肥が左足だけで立って、体をこちらに向けて体を反って「バナーナ」 とか言っている。古高は横でマイペースにバナナジュースを飲んでいる。シンドバッドは、ボーリングの球のようにメロンを転がそうとして いる。もちろん指の穴をくりぬいて。ブラザーズはなんかも苦しまぎれに二人でツイストを踊っている。
そして、次はビリジアンの番だ。ビリジアンのポリシーとして、どんな小さな仕事にも手だけは抜きたくなかったので、モロヘイヤの無理難 題に格闘していた。
「どうしたら、モロヘイヤらしさが出るんやろうな?」「モロ...モロ...モロ...モロヘイヤ...。」「お前、何言ってんねん。」と山田が 突っ込む。「せっかく用意してくれているみたいやし、もう、生のモロヘイヤの束を口にくわえて二人で『ぐるぐるボーン』とかやろうか。」 小規模なコマーシャルではあるが、自分たちの自信のネタの中に出てくるフレーズを使ってみることにした。マネージャーが構えるカメラに 向かって、二人ともモロヘイヤの根っこの部分をくわえて、口からモロヘイヤが生えている状態にして『ぐるぐるボーン』のポーズ。中腰で、 両手を胸の前でぐるぐるさせて、その後正面に向かって両手を出した。これを数ポーズ撮ってもらって、次は声の録音だ。ビデオ撮影の時に 撮ればいいのにとも思うのだが、声は今日撮るらしい。しかも、レコーディングスタジオとかそういうところに行くのではなく、手近なところ、 録音もこのスタジオで録音するらしい。
「ほぉら、おはようが録音中なんだから、ほかのメンバーは静かにぃ!」
こうして撮影と録音が終了して、今日は解散だ。

ある日、小藪はおはようの芦澤の家にいた。彼の家は兵庫県の伊丹にある。
「この前のCMの撮影やぁ、ビデオの録画のスケジュールまだ聞いてへんよなぁ。」そんな話をしながら、ゲームも飽きて、ボーッとした頭 で、芦澤の部屋にあるテレビのチャンネルを変えていると、見慣れないローカルなCMをやっているチャンネルがあった。芦澤の家はフルー ツのメンバーの中でも唯一サンテレビが見れる地域で、時々面白いものが見れるのだ。すると、
「おはようは、ストロベリー!」と聞き覚えのあるものが。「ビリジアンは『ぬるぬるぬるぬるニョーン!』」とか記憶に新しいフレーズだ。 こないだのCM撮影で声の録音したとき、とっさにアドリブかましたのだから。
ブラウン管に自分が映っている。何が何だかよく分からないけれども、こないだマネージャーが写るんですで撮影したと思われる写真が二秒 ごとにテレビの画面に表示されている。やられた。コマーシャルって喜んでいたけれども、UHF局のローカルCM、しかも静止画のコマー シャルだったのか。普通のコマーシャルって動画だと思っていたけれども、予算がないってそういうことだったのか。

そんな感じで、本人たちも知らない間にコマーシャルが完成していて、放映されていた。このコマーシャルは毎日夕方の時間帯、二年間に渡 って放映され続けた。そして、その二年間と言えば、神戸の劇場の仕事でお客さんの反応がよくなったくらい以外はビリジアンとしてはあまり 変化のない生活をしていたのだが、ある日、東京のテレビ局から出演依頼がやってきた。(続く) 7号へ


ビリジアン(小藪千豊・山田知一)

吉本興業のNSC12期生出身のコンビ。
最近の彼らのニュースといえば、大阪のABCテレビの人気番組『すんげー!BEST10』に出演したこと。うめだ派と言われる彼らにとって、 この番組に出演できることは革命に近い。「すんげー!に出たい。」といつも言っていた彼ら、そして応援していたファンにとっては忘れら れない出来事でした。

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