ウソ丸見えストーリー 7号

その弐「ビリジアン大いに唱う」(第四話)


一九九九年のビリジアン。山田が電車に乗っていると、マネージャーから電話がかかってきた。今までPHSしか持ってなかったのだけれど、 携帯のほうがはるかに安くなったので持ち替えたところだ。携帯の普及でだんだん番号がなくなってきていて、自分の電話も040なのが ちょっとダサダサだけれどもうれしい。電車の中1人にやけながら携帯を眺めていたらタイミングよく電話がかかってきた。着信音が一回 鳴るか鳴らないかのうちに取ったので、マネージャーはちょっとびっくりした様子だった。
「突然なんですが、明日東京まで行ってもらえますか?テレビ局で撮りがあるそうで、相方さんにも伝えておいて下さい。」男性マネージ ャーだ。フルーツ大統領時代の女性マネージャーはフルーツのメンバーの中の一人と結婚し寿退職してしまった。結婚相手でかつての仲間 だった彼も、彼なりにたいへんだったみたいだが、現在はピンで頑張っている。その相方はというと、ずっとあこがれていたジャッキーチ ェンのところに弟子入りをし、スタントマンを目指している。他のメンバーも個々の活動のほうが目立ってきて、フルーツ大統領は自然消 滅的に解散してしまった。
特に目立ったところでは、シンドバットがフルーツ大統領以外でイベントをやっていたコンビ2組とセットで全国に進出した。漫才もできる、 コントもできる、芝居もできる、トークも面白いし、なにせハリガネロック・松口とシンドバット・森という絡みがテレビ界ではとても重宝 されて、全国でバンバン番組をやってお茶の間の顔になっていた。
COWCOWは大阪で輝いていた。NGKの昼席にも登場するようになって、団体ばかりのお客さんの間に若い子も出入りするようになった。他の コンビもそれなりに仕事があって、地方からもお呼びがかかったりで忙しかった。ま、とにかく明日は東京で仕事が待っている。小藪に連絡 しないと。

いつもどこかに移動というときには別々で行動していたのだけれども、久々の東京ということで新大阪の駅の新幹線改札で待ち合わせをした。 小藪よりもちょっと早めに来て待っていたのだが、乗降客の誰からも「あ、ビリジアン・・・」という風には言われない。ちょくちょくテレ ビに出たりはしているつもりなんだけど。そのうち小藪がやって来て新幹線に乗ったが、別に会話が弾む訳でもなし、小藪は小藪でマンガを 読んでいるし、自分も自分で寝ようとしていたのだが、名古屋を過ぎたくらいでちょっとどんな仕事なのか心配になってきた。
「どんなことやるかも分からんし、急にネタとか言われても困るから、ちょっとくらい繰っとこかぁ。」と言い出したのはいいけれどもなか なか進まなかった。
「やっぱりつかみは大切だし、ご当地ネタってのを探さんとな・・・で東京・・・全国放送の番組だったら一般的に流行っていることでいい んやろか・・・。」車窓からの景色を眺めながら三十分もボーッとしていたら、浜名湖が見えてきた。
「『うなぎパイ』に対抗したバッタもんで、『うなパイ』とか?『なが〜い・うなパイ』って書いてあって、本家本元の『うなぎパイ』より も長いらしい・・・。」「東京やしな、うなぎの話をしてもな。」結局、ネタをすることになったらいつものアレでいいか・・・となった。 アレとは、いつも呼び捨てにしている小藪の彼女の田中に遠回しにプロポーズする漫才だ。

東京駅に着くと、ちょっと時間があったこともあり、小藪がおみやげを買おうと言い出した。「キティちゃん人形焼」を探して東京駅構内を 練り歩いたのだが見つからない。探しているうち、「小藪、入り時間って俺何時って言ったっけー。」「あー、やばっ。めっちゃ急がな間に 合えへん・・・。」
慌ててテレビ局にかけつけた。入口の保安室で「吉本興業のビリジアン」と言うとハイハイと簡単に入れてもらえたので、ちょっと個室の楽屋 というものに期待してみたが、やっぱり大部屋だった。大部屋に入って、知っている芸能人を探したが、誰一人いなかった。標準語とちょっと 違うような人がいるし、知らない人ばかりだ。自分たちは特に衣装を持ってきた訳でもない。けど、大部屋にいる中の一人は、全身スパンコー ルのスーツなんか着たりしていた。
「いったい何の撮りなんやろ・・・。」大部屋のその楽屋の奥を見ると、本のようなものが山積みされていた。
「一人一部ずつ取って下さい。(台本)」横にそのような張り紙がしてあった。取りに行こうとしたらADらしき人がやって来て、
「こちらのスタジオに全員移動お願いします。」小藪のおみやげ探しのためギリギリのテレビ局到着で、結局ろくに台本に目を通すことも できずスタジオ入りとなってしまった。いったい、何の仕事なんだ。
スタジオに入ると大きなひな壇と、真ん中に主な出演者の席があって採点をするような電光掲示板があった。自分たちはその他大勢で案内され たので、やはりひな壇だった。お客さんもすでに入っていたのだけれども、なにせ自分たちでさえ知っている人がいないくらいの出演者だから、 お客さんも沸くわけでもない。あんまり状況が把握できていない。座ってやっと落ち着いてきたところで周りの空気をうかがうと、なんやら特 番のようで地方のおもしろCMを取り上げようというものらしかった。ビリジアンとしては、なぜこんな番組に出演するのか分からなかった。 バイトのCMも小藪だけだったのに。
番組は地方のCMを放送して、それをゲストが採点して大賞を決めようというもの。ゲスト審査員の一人に大東めぐみを見つけた。数年前、番 組で共演したことがあったので、よく分からない番組収録だけれども、知っている顔を見て安堵感をおぼえた。大東めぐみがひな壇のほうを向 いた瞬間会釈をしてみたが・・・無視された。(続く)


ビリジアン(小藪千豊・山田知一)

この夏、ビリジアン3度目の単独ライブ「ビリクエ3」が行われた。特に印象深かったのは八百屋コント。「安いよ、安いよ。」と大根を売り 込む小藪に対して、どういう根拠をもとに安いと言っているのか説明せよと山田が言う。ロビーには、小藪の映画「学校2」の撮影の時の写真、 山田のテレビ「万国超紀行」の外国ロケの時の写真などが展示してあり、懐かしくもあり貴重な写真になめるように見入ってしまいました。

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