本日は予定を変更して、側頭骨の外傷についてのあれこれをお届けする。 毎度毎度脱線ばかりで申し訳ないねぇ。 側頭骨のターゲットCTを読むときに大切なもの、それは一にも二にも側頭骨・ 内耳の解剖である。 いや、CTにしろMRIにしろ、画像診断に解剖は必須なんであるが、それは特に この部位で顕著であると言えよう。 なぜならば、この部位は、ものすごく狭い範囲に、耳小骨を中心としたものすごく 小さなコンポーネントが、まるで昨今のLSIのごとく、ぎゅうぎゅう詰めになって いるからなのである。 従って、解剖ひとつとっても、覚えることが非常に多いのである。 じゃあ、そこをどうやって覚えていくかというと‥‥ 残念だが、いい方法はない。あれば俺がやっている。 読影のたびに本をひっぺがして、これが何の穴で、これが何の骨で‥‥と、少し ずつ覚えるしかないと思う。がっかりである。 何にせよ、側頭骨にしろ頭頚部にしろ、いわゆる耳鼻科領域の解剖は「鬼門」。 とにかく覚えにくいのだが、それをしっかり覚えないことには画像を読めない。 頑張りたいものである。自戒を込めて。 さて、そんな側頭骨であるが、今日はここの「外傷」を取り上げてみよう。 理由は、最近側頭骨の外傷のややこしいCTを読影する機会があって、ここを それなりに勉強したので、それを忘れないうちにテキスト化しておこう、といった 至極個人的な理由である。 この講座はそういう講座だ、と開き直ってみる。(^^; 「側頭骨の外傷」というのは、つまり、側頭骨の骨折である。 基本的に、どこで骨折しているかを直接示す「骨折線」は、CTでよく見える ことになっている。っていうか、実際によく見える。 で、まず問題になるのは、この骨折線がどういう方向で入っているか、である。 なんでそんなもんが問題になるのかというと、骨折線の入る方向で症状が違って くるなんでからである。 側頭骨骨折は、次の3つに分類される。 ・縦骨折 錐体骨の長軸方向に折れているもの。 ・横骨折 錐体骨の短軸方向に折れているもの。 ・混合骨折 上記の2つが混ざって折れているもの。 もちろん、実際には「斜めに折れているもの」もあるんだが、そーゆーのは 「どっちかってーと縦に近いか横に近いか」で判断するっぽい。 最近では「斜骨折」を分類に含めようとする流れもあるらしいが。 縦骨折は70〜90%と圧倒的に多い。頭頂部や側頭部の打撲で見られる。 骨折線が上鼓室を通る場合は耳小骨離断を伴うことがある。 鼓室蓋に骨折が及び、硬膜が破れた場合、脳脊髄漏が生じる。 骨折線に沿って中耳に扁平上皮が侵入し、将来真珠腫が出来る可能性がある。 横骨折は後頭部の打撲で生じる。 骨折線が通る部位により、蝸牛、前庭、半規管が障害される。これにリンパ液の 漏出を伴う場合、持続性のめまい及び感音性難聴の原因となる。 つーとこで、縦と横の話は基本的に終わりであり、ここからは代表的な合併症の 話にいこう。 まずは上記の耳小骨離断。中耳内の血腫の吸収後や鼓膜裂傷の治癒後も 伝音性難聴が続く場合は疑ってかかるべし。 多いのはキヌタ・アブミ関節脱臼、次がツチ・キヌタ関節脱臼である。 耳小骨と言えばアブミ骨骨折も多いんだが、CTで見えないらしい。残念。 次が顔面神経麻痺。横骨折で50%以上、縦骨折で20%に見られる。 これは受傷から症状出現までの時間が重要。数時間後なら出血による顔面神経の 圧迫や浮腫が原因なんで何とかなるんだが、問題は受傷すぐの場合。この時は 顔面神経の損傷を疑う。 最後に迷路の振盪。骨折がないのに聴力障害や平衡障害があればこれを疑う。 CTやMRIでは診断困難なんだが、もし迷路内に出血があれば、MRIで診断可能。 というようなところを勉強して今日は終わりであった。 次回は脳腫瘍に戻りたい。 |