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2001.6.8



本日は予定を変更して、側頭骨の外傷についてのあれこれをお届けする。
毎度毎度脱線ばかりで申し訳ないねぇ。


側頭骨のターゲットCTを読むときに大切なもの、それは一にも二にも側頭骨・
内耳の解剖
である。
いや、CTにしろMRIにしろ、画像診断に解剖は必須なんであるが、それは特に
この部位で顕著であると言えよう。
なぜならば、この部位は、ものすごく狭い範囲に、耳小骨を中心としたものすごく
小さなコンポーネントが、まるで昨今のLSIのごとく、ぎゅうぎゅう詰めになって
いるからなのである。
従って、解剖ひとつとっても、覚えることが非常に多いのである。

じゃあ、そこをどうやって覚えていくかというと‥‥
残念だが、いい方法はない。あれば俺がやっている
読影のたびに本をひっぺがして、これが何の穴で、これが何の骨で‥‥と、少し
ずつ覚えるしかないと思う。がっかりである。

何にせよ、側頭骨にしろ頭頚部にしろ、いわゆる耳鼻科領域の解剖は「鬼門」。
とにかく覚えにくいのだが、それをしっかり覚えないことには画像を読めない。
頑張りたいものである。自戒を込めて。


さて、そんな側頭骨であるが、今日はここの「外傷」を取り上げてみよう。
理由は、最近側頭骨の外傷のややこしいCTを読影する機会があって、ここを
それなりに勉強したので、それを忘れないうちにテキスト化しておこう、といった
至極個人的な理由である。
この講座はそういう講座だ、と開き直ってみる。(^^;


「側頭骨の外傷」というのは、つまり、側頭骨の骨折である。
基本的に、どこで骨折しているかを直接示す「骨折線」は、CTでよく見える
ことになっている。っていうか、実際によく見える。
で、まず問題になるのは、この骨折線がどういう方向で入っているか、である。
なんでそんなもんが問題になるのかというと、骨折線の入る方向で症状が違って
くる
なんでからである。

側頭骨骨折は、次の3つに分類される。

・縦骨折
 錐体骨の長軸方向に折れているもの。

・横骨折
 錐体骨の短軸方向に折れているもの。

・混合骨折
 上記の2つが混ざって折れているもの。

もちろん、実際には「斜めに折れているもの」もあるんだが、そーゆーのは
「どっちかってーと縦に近いか横に近いか」で判断するっぽい。
最近では「斜骨折」を分類に含めようとする流れもあるらしいが。

縦骨折は70〜90%と圧倒的に多い。頭頂部や側頭部の打撲で見られる。
骨折線が上鼓室を通る場合は耳小骨離断を伴うことがある。
鼓室蓋に骨折が及び、硬膜が破れた場合、脳脊髄漏が生じる。
骨折線に沿って中耳に扁平上皮が侵入し、将来真珠腫が出来る可能性がある。

横骨折は後頭部の打撲で生じる。
骨折線が通る部位により、蝸牛、前庭、半規管が障害される。これにリンパ液の
漏出を伴う場合、持続性のめまい及び感音性難聴の原因となる。


つーとこで、縦と横の話は基本的に終わりであり、ここからは代表的な合併症の
話にいこう。
まずは上記の耳小骨離断。中耳内の血腫の吸収後や鼓膜裂傷の治癒後も
伝音性難聴が続く場合は疑ってかかるべし。
多いのはキヌタ・アブミ関節脱臼、次がツチ・キヌタ関節脱臼である。
耳小骨と言えばアブミ骨骨折も多いんだが、CTで見えないらしい。残念。

次が顔面神経麻痺。横骨折で50%以上、縦骨折で20%に見られる。
これは受傷から症状出現までの時間が重要。数時間後なら出血による顔面神経の
圧迫や浮腫が原因なんで何とかなるんだが、問題は受傷すぐの場合。この時は
顔面神経の損傷を疑う。

最後に迷路の振盪。骨折がないのに聴力障害や平衡障害があればこれを疑う。
CTやMRIでは診断困難なんだが、もし迷路内に出血があれば、MRIで診断可能。


というようなところを勉強して今日は終わりであった。
次回は脳腫瘍に戻りたい。


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