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 『若紫(大島本)

 暑きほどは、いとど起きも上がりたまはず。三月になりたまへば、いとしきるほどにて、人びと見たてまつりとがむるに、あさましき御宿世のほど、心憂し。人は思ひ寄らぬことなれば、「この月まで、奏せさせたまはざりけること」と、驚ききこゆ。我が御心一つには、しるう思しわくこともありけり。
 御湯殿などにも親しう仕うまつりて、何事の御気色をもしるく見たてまつり知れる、御乳母子の弁、命婦などぞ、あやしと思へど、かたみに言ひあはすべきにあらねば、なほ逃れがたかりける御宿世をぞ、命婦はあさましと思ふ。

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  第二章 藤壺の物語 夏の密通と妊娠の苦悩物語  [第二段 妊娠三月となる]

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