検索結果詳細


 『若菜下(明融臨模本)

 かの人は、わりなく思ひあまる時々は、夢のやうに見たてまつりけれど、宮、尽きせずわりなきことに思したり。院をいみじく懼ぢきこえたまへる御心に、ありさまも人のほども、等しくだにやはある、いたくよしめきなまめきたれば、おほかたの人目にこそ、なべての人には優りてめでらるれ、幼くより、さるたぐひなき御ありさまに馴らひたまへる御心には、めざましくのみ見たまふほどに、かく悩みわたりたまふは、あはれなる御宿世にぞありける。
 御乳母たち見たてまつりとがめて、院の渡らせたまふこともいとたまさかになるを、つぶやき恨みたてまつる。
 かく悩みたまふと聞こし召してぞ渡りたまふ。女君は、暑くむつかしとて、御髪澄まして、すこしさはやかにもてなしたまへり。臥しながらうちやりたまへりしかば、とみにも乾かねど、つゆばかりうちふくみ、まよふ筋もなくて、いときよらにゆらゆらとして、青み衰へたまへるしも、色は真青に白くうつくしげに、透きたるやうに見ゆる御肌つきなど、世になくらうたげなり。もぬけたる虫の殻などのやうに、まだいとただよはしげにおはす。

 528/762 529/762 530/762

  第九章 女三の宮の物語 懐妊と密通の露見  [第一段 女三の宮懐妊す]

  [Index]