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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 道連れになつた上人は、名古屋から此の越前敦賀の旅篭屋に来て、今しがた枕に就いた時まで、私が知つてる限り余り仰向けになつたことのない、詰り傲然として物を見ない質の人物である。
 一体東海道掛川の宿から同じ汽車に乗り組んだと覚えて居る、腰掛の隅に頭を垂れて、灰の如く控へたから別段目にも留まらなかつた。
 尾張の停車場で他の乗組員は言合せたやうに、不残下りたので、函の中には唯上人と私と二人になつた。

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