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 『人魚の祠』 青空文庫

 唯《と》、何と、其の棕櫚の毛の蚤の巣の処に、一人、頭《づ》の小さい、眦《めじり》と頬の垂下つた、青膨《あをぶく》れの、土袋《どぶつ》で、肥張《でつぷり》な五十恰好の、頤鬚を生した、漢《をとこ》が立つて居るぢやありませんか。何ものとも知れない。越中褌と云ふ……あいつ一つで、真裸で汚い尻《けつ》です。
 婦《をんな》は沼の洲へ泳ぎ着いて、卯の花の茂《しげり》にかくれました。
 が、其の姿が、水に流れて、柳を翠の姿見にして、ぽつと映つたやうに、人の影らしいものが、水の向うに、岸の其の柳の根に薄墨色に立つて居る……或は又……此処の土袋《どぶつ》と同一《おなじ》やうな男が、其処へも出て来て、白身《はくしん》の婦人《をんな》を見て居るのかも知れません。

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