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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
「どうして唄は知れませんが、声だけは、どうやらその人……否《いいえ》……そのものであるらしい。この手毬を弄ぶのは、確にその婦人《おんな》であろう。その婦人《おんな》は何となく、この空邸に姿が見えるように思われます。……むしろ私はそう信じています。
爺さんに強請《ねだ》って、此処を一室《ひとま》借りましたが、借りた日にもうその手毬を取返され――私は取返されたと思うんですね――美しく気高い、その婦人《おんな》の心では、私のようなものに拾わせるのではなかったでしょう。
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