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 『日本橋』 青空文庫

 この毛むくじゃらを、稲葉家の縁起棚の傍で見た事があるというだけ、その血相と、意気込みで、様子を悟って、爺さんは、やがて、押くり返し何と言われても、行った先を饒舌らなかった事は言うまでもない。
「御自分、ついて行って見なさりゃ可かった。」
 何か知らぬが、お千世が世話になる稲葉家に退かぬ中の男、と思うだけ、虫を堪えて飽くまで下手に出た爺さんも、余りの押問答、悪執拗さに、こう言って焦れたほどである。

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