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 『化鳥』 青空文庫

人に踏まれたり、蹴られたり、後足《うしろあし》で砂をかけられたり、苛《いぢ》められて責《さいな》まれて、熱湯《にえゆ》を飲ませられて、砂を浴《あび》せられて、鞭《むち》うたれて、朝から晩まで泣通《なきどほ》しで、咽喉《のど》がかれて、血を吐いて、消えてしまいさうになつてる処を、人に高見《たかみ》で見物《けんぶつ》されて、おもしろがられて、笑はれて、慰《なぐさみ》にされて、嬉しがられて、眼が血走《ちばし》つて、髪が動いて、唇が破《やぶ》れた処で、口惜《くや》しい、口惜《くや》しい、口惜《くや》しい、口惜《くや》しい、畜生め、獣《けだもの》め、ト始終《しじう》さう思つて、五年も八年も経たなければ、真個《ほんとう》に分ることではない、覚えられることではないんださうで、お亡《なく》んなすつた、父様《おとつさん》トこの様《おつかさん》とが聞いても身震《みぶるひ》がするやうな、そういふ酷《ひど》いめに、苦しい、痛い、苦しい、辛《つら》い、惨刻《ざんこく》なめに逢つて、さうしてやう/\お分りになつたのを、すつかり私《わたし》に教へて下すつたので。私《わたし》はたゞちやん/\てツて様《おつかさん》の肩をつかまいたり、膝にのつかつたり、針箱《はりばこ》の引出《ひきだし》を交ぜかへしたり、物《もの》さしをまはして見たり、縫裁《おしごと》の衣服を天窓《あたま》から被《かぶ》つて見たり、叱《しか》られて逃《に》げ出したりして居て、それでちやんと教へて頂《いたゞ》いて、其をば覚えて分つてから、何でも鳥だの、獣《けだもの》だの、草だの、木だの、虫だの、簟《きのこ》だのに人が見えるのだからこんなおもしろい、結構なことはない。しかし私《わたし》にかういふいゝことを教へて下すつた様《おつかさん》は、とさう思ふ時は鬱《ふさ》ぎました。これはちつともおもしろくなくつて悲しかつた、勿体《もつたい》ないとさう思つた。

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