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『薬草取』 青空文庫
人の声を聞き、姿を見ようとは、夢にも思わぬまで、遠く里を離れて、はや山深く入っていたのに、呼懸《よびか》けたのは女であった。けれども、高坂は一見して、直《ただち》に何ら害心《がいしん》のない者であることを認め得た。
女は片手拝《かたておが》みに、白い指尖《ゆびさき》を唇にあてて、俯向《うつむ》いて経《きょう》を聞きつつ、布施をしようというのであるから、
「否《いや》、私《わし》は出家《しゅっけ》じゃありません。」
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