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『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む
寝る時には、厚衾に、此の熊の皮が上へ被つて、袖を包み、蔽い、裙を包んだのも面白い。あくる日、雪に成らうとてか、夜嵐の、じんと身に浸むのも、木曽川の瀬の凄いのも、ものゝ数ともせず、酒の血と、獣の皮とで、ほか/\して三階にぐつすり寐込んだ。
次第であるから、朝は朝飯から、ふつ/\と吹いて啜るやうな豆腐の汁も気に入つた。
一昨日の旅館の朝は何うだらう。……溝の上澄のやうな冷い汁に、御羹ほどに蜆が泳いで、生煮の臭さと言つたらなかつた。……
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