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 『海神別荘』 華・成田屋

公子  ところが、敵に備うるここの守備を出払わしたから不用心じゃ、危険であろう、と僧都が言われる。・・・それは恐れん、私が居れば仔細ない。けれども、また、僧都の言われるには、白衣に緋の襲した女子を馬に乗せて、黒髪を槍尖で縫ったのは、かの国で引廻しとか称えた罪人の姿に似ている、私の手許に迎入るるものを、不詳じゃ、忌わしいと言うのです。
事実不詳なれば、途中の保護は他にいくらも手段があります。それは構わないが、私はいささかも不詳とは思わん、忌わしいと思わない。
これを見ないか。私の領分に入った女の顔は、白い玉が月の光に包まれたと同一(おなじ)に、いよいよ清い。眉は美しく、瞳は澄み、唇の紅は冴えて、いささかも窶れなし。憂えておらん。清らかな衣(きもの)を着、新(あらた)に梳って、花に露の点滴る(したたる)装(よそおい)して、馬に騎した姿は、かの国の花野の丈を、錦の山の懐に抽く(ぬく)・・・歩行(あるく)より、車より、駕籠に乗ったより、一層鮮麗(あざやか)なものだと思う。その上、選抜した慓悍(ひょうかん)な黒潮騎士の精鋭等(ども)に、長槍をもって、四辺(あたり)を払わせて通るのです。得意思うべしではないのですか。

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