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 『五大力』 従吾所好

 ――(御承知もありませうが、不思議な言伝へがあります、これは宝もの。途中お気を着け下さいまし……分けて此の辺は川筋です。河岸を御通行の事、間違ひがあつては取返しが着きません、何分何うぞ。)――と恐しく念を入れて、私に手渡し為たのが、此の何、冬木に住まつてる絵師〈えかき〉でね、……懇意づく――其宝の持主の、……私には母方の叔父に当る、駿河台の苦虫から借りて居たのを――便宜で、託けて返さうと云ふんだ。
 頼むものに事を缺いた……
 死んだか、活きたか、音信の知れない、昔のひとが可懐しさに、ばかの目刺の名物を仕入れに来た半間な面で、山の手から電車に積まれて。えつちら、おつちら、……枯蘆の空へ、白い太陽〈ひ〉の出た深川を、(それ、千鳥だよ、)と功労経た雀に小馬鹿にして飛ばれながら、ぶら/\歩行〈ある〉いて居た私に、又、そんな大事なものを持たせて返すつて云ふがあるもんか。」

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