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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 泰助は、幕の蔭より之を見て、躍り出むと思へども、敵は多し身は単つ、湍《はや》るは血気の不得策、今いふ如き情実なれば、よしや殴打をなすとても、死に致す憂《うれひ》はあらじ。捕縛して其後に、渠等の罪を数ふるには、娘を打たすも方便ならむか、さはさりながらいたましし、と出るにも出られずとつおいつ、拳に思案を握りけり。
 得三は予て斯くあらむと用意したる、弓の折《をれ》を振上ぐれば老婆はお藤の手を扼《とりしば》りぬ。はつしと撲《う》たれて悲鳴を上げ、「あゝれ御免なさいまし、御免なさいまし。と後へ反り前へ俯し、悶え苦しみのりあがり、蹴返す白脛はたはけき心を乱すになむ、高田駄平は酔へるが如く、酒打ち飲みて居たりけり。

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