検索結果詳細


 『婦系図』 青空文庫

 そうおっしゃれば、あの掏られた、と言いなさる洋服《ふく》を着た方も、おかしな御仁でござりますよ。此娘《これ》の貴下《あなた》、(と隣に腰かけた、孫らしい、豊肌《ぽってり》した娘の膝を叩いて、)簪《かんざし》へ、貴下、立っていてちょいちょい手をお触りなさるでございます。御仁体が、御仁体なり、この娘《こ》が恥かしがって、お止しよ、お止しよ、と申しますから、何をなさる、と口まで出ましたのを堪《こら》えていたのでござりますよ。お止しよ、お祖母さんと、その娘はまた同じことをここで云って、ぼうと紅くなる。
 法然天窓は苦笑いをして……後からせせるやら、前からは毛の生えた、大《おおき》な足を突出すやら……など、浄瑠璃にもあって、のう、昔、この登り下りの乗合船では女子衆《おなごしゅ》が怪しからず迷惑をしたものじゃが、電車の中でも遣りますか、のう、結句、掏摸よりは困りものじゃて。

 1148/3954 1149/3954 1150/3954


  [Index]