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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 背後《うしろ》で雨戸を閉めかけて、おじい、腰が抜けたか、弱い男だ、とどうやら風向が可さそうなので、宰八が嘲ると、うんにゃ足の裏が血だらけじゃ、歩行《あるく》と痕がつく、と這いながらいったので――イヤその音の夥しさ。がらりと閉め棄てに、明の背《せな》へ飛縋った。――真先へ行燈が、坊さまの裾あたり宙を歩行《ある》いて、血だらけだ、という苦虫が馬の這身《はいみ》、竹槍が後《しりえ》を圧えて、暗がりを蟹が通る。……広縁をこの体は、さてさて尋常事《ただごと》ではない。
 やがて座敷で介抱して、漸々《ようよう》正気づくと、仁右衛門は四辺《あたり》を〓《みまわ》し、あままたび口籠りながら、相済みましねえ、お客様、御出家、宰八此方《こなた》にはなおの事、四十年来の知己《ちかづき》が、余り気心を知らんようで、面目もない次第じゃ。

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