検索結果詳細


 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 御主人鶴谷様のこの別宅、近頃の怪しさ不思議さ。余りの事に、これは一分別ある処と、三日二夜《ふたよさ》、口も利かずにまじまじと勘考した。はて巧んだり! 適切《てっきり》此奴大詐欺《おおかたり》に極まった。汝《うぬ》らが謀って、見事に妖怪邸《ばけものやしき》にしおおせる。棄て置けば狐狸の棲処《すみか》、さもないまでも乞食の宿、焚火の火沙汰も不用心、給金出しても人は住まず、持余《もてあま》しものになるのを見済まし、立腐れの柱を根こぎに、瓦屋根を踏倒して、股倉へ掻込む算段、図星々々。這《しゃ》! 明神様の託宣《おつげ》――と眼玉《まなこだま》で睨んで見れば、どうやら近頃から逗留した渡りものの書生坊《しょせっぽう》、悪く優しげな顔色《つらつき》も、絵草紙で見た児来也だぞ、盗賊の張本《ちょうほん》ござんなれ。晩方来《う》せた旅僧めも、その同類、茶店の婆も怪しいわ。手引した宰八も抱込まれたに相違ない。道理こそ化物沙汰に輪を掛る。待て待て狂人《きちがい》の真似何でもない事、嘉吉も一升飲まされた――巫山戯《ふざけ》た奴ら、何処だと思う。秋谷村には甘え柿と、苦虫あるを知んねえか、と故《わざ》と臆病に見せかけて、宵に遁げたは真田雪村、やがてもり返して盗賊《どろぼう》の巣を乗取る了簡。

 1183/1510 1184/1510 1185/1510


  [Index]