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『日本橋』 青空文庫
娘が夕化粧の結綿で駆出して、是非、と云って腰を掛さして、そこは商売物です。直ぐに足袋を穿替えさせるとなって、かねて大切なお山の若旦那だから、打たての水に褄を取ると、お極りの緋縮緬をちらりと挟んで、つくまって坊さんの汚れた足袋を脱がそうとすると、紐なんです。……結んだやつが濡れたと来て、急には解けなかった為に口を添えた、皓歯でその、足袋の紐に口紅の附いたのを見て、晩方の土の紺泥に、真紅の蓮花が咲いたように迷出して、大堕落をしたと言う、いずれ堕落して還俗だろうさ。
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