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 『日本橋』 青空文庫

 娘が夕化粧の結綿で駆出して、是非、と云って腰を掛さして、そこは商売物です。直ぐに足袋を穿替えさせるとなって、かねて大切なお山の若旦那だから、打たての水に褄を取ると、お極りの緋縮緬をちらりと挟んで、つくまって坊さんの汚れた足袋を脱がそうとすると、紐なんです。……結んだやつが濡れたと来て、急には解けなかった為に口を添えた、皓歯でその、足袋の紐に口紅の附いたのを見て、晩方の土の紺泥に、真紅の蓮花が咲いたように迷出して、大堕落をしたと言う、いずれ堕落して還俗だろうさ。
 こっちは悔悟して、坊主にでもなろうと云うんだ。……いずれ精進には縁があります。自棄だから序に言うが、……私は、はじめて逢った時、二十三の年、……高等学校を出ると、祝だと云って連出して、村田屋で御飯を驕ったものがある。酒は飲めず、畏って煙草ばかり吐かしていたので、愛想に一本、ちょっと吸って、帰りがけにくれたのが、」

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