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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 と思ったがそれは遠い。このふっくりした白いものは、南無三宝仰向けに倒れた女の胸、膨らむ乳房の真中あたり、鳩尾《みずおち》を、土足で踏んでいようでないか。
 仁右衛門ぶるぶるとなり、据眼《すえまなこ》に熟《じっ》と見た、い咽喉《のんど》をのけ様《ざま》に、苦痛に反らして、黒髪を乱したが、唇を洩る歯のさ。草に鼻筋の通った顔は、忘れもせぬ鶴谷の嫁、初産《ういざん》に世を去った御新姐である。

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