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 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫

 石も、折箱の蓋も撥飛ばして、笊を開けた。「御免よ。」「御免なさいよ。」と、雀の方より、こっちが顔を見合わせて、悄気げつつ座敷へ引込んだ。
 少々極《きまり》が悪くって、しばらく、背戸へを出さなかった。
 庭下駄を揃えてあるほどの所帯ではない。玄関の下駄を引抓んで、晩方背戸へ出て、柿の梢の一つ星を見ながら、「あの雀はどうしたろう。」ありたけの飛石――と言っても五つばかり――を漫《そぞろ》に渡ると、湿けた窪地で、すぐ上が荵《しのぶ》や苔、竜の髯の石垣の崖になる、片隅に山吹があって、こんもりした躑躅が並んで植っていて、垣どなりの灯が、ちらちらと透くほどに二、三輪咲残った……その茂った葉の、蔭も深くはない低い枝に、雀が一羽、たよりなげに宿っていた。正に前刻《さっき》の仔に違いない。…様子が、土から僅か二尺ばかり。これより上へは立てないので、ここまで連れて来た女親《おふくろ》が、わりのう預けて行ったものらしい……敢て預けて行ったと言いたい。悪戯を詫びた私たちの心を汲んだ親雀の気の優しさよ。……その親たちの塒《ねぐら》は何処?……この嬰児《あか》ちゃんは寂しそうだ。

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