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 『蛇くひ』 青空文庫

 渠等《かれら》米銭を恵まるゝ時は、「お月様幾つ」と一斉に叫び連れ、後《あと》をも見ずして走り去るなり。ただ貧家を訪《と》ふことなし。去りながら外面《おもて》に窮乏を粧《よそほ》ひ、嚢中却て温《あたゝか》なる連中には、頭から此《この》一芸を演じて、其家《そこ》の女房娘等が色を変ずるにあらざれば、決して止《や》むることなし。法はいまだ一個人の食物に干渉せざる以上は、警吏も施すべき手段なきを如何せむ。
 蝗《いなご》、蛭、蛙、蜥蜴《とかげ》の如きは、最も喜びて食する物とす。語を寄す(応)よ、願はくはせめて糞汁を啜ることを休《や》めよ。もし之を味噌汁と酒落て用ゐらるゝに至らば、十万石の稲は恐らく立処《たちどころ》に枯れむ。

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