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 『蛇くひ』 青空文庫

 最も饗膳《きやうぜん》なりとて珍重するは、長虫の茹初《ゆでたて》なり。蛇《くちなは》の料理塩梅を潜《ひそ》かに見たる人の語りけるは、(応)が常住の居所《ゐどころ》なる、屋根なき褥なき郷《がう》屋敷田畝の真中《まんなか》に、銅《あかゞね》にて鋳たる鼎(に類す)を裾ゑ、先づ河水《かはみづ》を汲み入るゝこと八分目余、用意了《をは》れば直ちに走りて、一本榎の洞《うろ》より数十條の蛇《くちなは》を捕へ来り、投込《なげこ》むと同時に目の緻密《こまか》なる笊《ざる》を蓋ひ、上には犇《ひし》と大石《たいせき》を置き、枯草《こさう》を燻《ふす》べて、下より爆〓《ぱツ/\》と火を焚けば、長虫は苦悶に堪へず蜒転〓《のたうちまは》り、遁れ出でんと吐き出《いだ》す繊舌炎よりく、笊の目より突出《つきいだ》す頭《かしら》を握り持ちてぐツと引けば、背骨は頭《かしら》に附きたるまゝ、外へ抜出《ぬけい》づるを棄てて、屍傍《かたへ》に堆《うづたか》く、湯の中に煮えたる肉をむしや――むしや喰らへる様は、身の毛も戦悚《よだ》つばかりなりと。

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