検索結果詳細


 『木の子説法』 青空文庫

 走りはしません、ぽたぽたぐらい。一人児《ひとりっこ》だから、時々飲んでいたんですが、食が少いから涸《か》れがちなんです。私を仰向《あおむ》けにして、横合から胸をはだけて、……まだ袷《あわせ》、お雪さんの肌には微《かす》かに紅《くれない》の気《け》のちらついた、春の末でした。目をはずすまいとするから、弱腰を捻《ひね》って、髷《まげ》も鬢《びん》もひいやりと額にかかり……白い半身が逆になって見えましょう。……今時……今時……そんな古風な、療治を、禁厭《まじない》を、するものがあるか、とおっしゃいますか。ええ、おっしゃい。そんな事は、まだその頃ありました、精盛薬館、一二《おいちに》を、掛売で談ずるだけの、余裕があっていう事です。
 このありさまは、ちょっと物議になりました。主人《あるじ》の留守で。二階から覗いた投機家が、容易ならぬ沙汰をしたんですが、若い燕だか、小僧の蜂だか、そんな詮議《せんぎ》は、飯を食ったあとにしようと、徹底した空腹です。

 119/231 120/231 121/231


  [Index]