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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 隙《すか》さず、這般《この》不気味な和郎《わろ》を、女房から押隔てて、荷を真中へ振込むと、流眄《しりめ》に一睨み、直ぐ、急足《いそぎあし》になるあとから、和郎は、のそのそ――大な影を引いて続く。
 「御覧《ごろう》じまし、あの通り困ったものでござります。」
 法師も言葉なく見送るうち、沖から来るか、途絶えては、ずしりと崖を打つ音が、松風と行違いに、向うの山に三度ばかり浪の調べを通わすほどに、紅白段々《だんだら》の洋傘《こうもり》は、小さく鞠のようになって、人の頭が入交ぜに、空へ突きながら行くかと見えて、一条道の其処までは一軒の苫屋もない、彼方大崩壊《おおくずれ》の腰を、点々《ぽつぽつ》。

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