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 『日本橋』 青空文庫

 これがまた悲惨でね。……聞いて見ると、猫の小間使に行っていたんだ。主人夫婦が可恐い猫好きで、その為に奉公人一人給金を出して抱えるほどだから、その手数の掛る事と云ったら無い、お剰に御秘蔵が女猫と来て、産の時などは徹夜、附っきり。生れた小猫に、すぐにまた色気が着くと、何とどうです、不潔物の始末なんざ人間なみにさせられる。……処へ、妹が女の子の癖に、かねて猫嫌いと来ていたんだものね。死ぬほどの思いで、辛抱はしたんだが、遣切れなくなって煩いついた。(少し変だ、顔を洗うのに澄まして片手で撫でる、気を鎮めるように。)と言って、主人から注意があったんだとね。
 祖母は祖母で、目を煩ってほとんど見えない。二人の孫を手探りにしてい涙を流すんじゃないか。
 私は気が付くと、その夜、――後で妹の話を聞いて慄然して飛んで出たが、猫行火に噛着いていて、豆煎を頬張ったが、余り腹が空いて口が乾いて咽喉へ通らないから、番茶をかけて掻込んだって。

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