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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 難儀さも、蛇も、毛虫も、鳥の卵も、草いきれも、記してある筈はないのぢやから、薩張と畳んで懐に入れて、うむと此の乳の下へ念仏を唱へ込んで立直つたは可いが、息も引かぬ内に情無い長虫が路を切つた。
 其処でもう所詮叶はぬと思つたなり、これは此の山の霊であらうと考へて、杖を棄てて膝を曲げ、じり/\する地に両手をついて、
(誠に済みませぬがお通しなすつて下さりまし、成たけお午睡の邪魔になりませぬやうに密と通行いたしまする。

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