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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 同時に、さら/\さら/\との音が響いて聞える。「――又誰か洗面所の口金を開放したな。」此がまた二度めで……今朝三階の座敷を、此処へ取替へない前に、些と遠いが、手を取るのに清潔だからと女中が案内をするから、此の離座敷に近い洗面所に来ると、三ヶ所、道口があるのに其のどれを捻つてもが出ない。然ほどの寒さとは思へないが凍てたのかと思つて、谺のやうに高く手を鳴して女中に言ふと、「あれ、汲込みます。」と駈出して行くと、やがて、スツとが出た。――座敷を取替へたあとで、はゞかりに行くと、外に手鉢がないから、洗面所の一つを捻つたが、その時はほんのたら/\と滴つて、辛うじて用が足りた。

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