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 『薬草取』 青空文庫

 産《う》んで下すった礼を言うのに、唯《ただ》御機嫌好《よ》うとさえ言えば可《い》いと、父から言いつかって、枕頭《まくらもと》に手を支《つ》いて、其処《そこ》へ。顔を上げた私と、枕に凭《もた》れながら、熟《じっ》と眺めた母と、顔が合うと、坊や、もう復《なお》るよと言って、涙をはらはら、差俯向《さしうつむ》いて弱々《よわよわ》となったでしょう。
 父が肩を抱いて、徐《そっ》と横に寝かした。乳が、掻巻《かいまき》を被《き》せ懸けると、襟《えり》に手をかけて、向うを向いてしまいました。
 台所から、中の室《ま》から、玄関あたりは、ばたばた人の行交《ゆきか》う音。尤《もっと》も帯をしめようとして、濃いお納戸《なんど》の紋着に下じめの装《なり》で倒れた時、乳母が大声で人を呼んだです。

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