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 『日本橋』 青空文庫

「姉の方は、天か地か、まるで幽明処を隔つ、遠い昔のものがたりの中に住むか、目近に姿ばかりの錦絵を見るようだろう。同じ、娑婆に、おなじ時刻に、同じ檜物町の土地に、ただ町を離れて、本郷の学校の門と、格子戸を隔てただけで住んでいる筈の清葉さえ、夢に見ても夢でさえ、遠出だったり、用達しだったり、病気だったりして逢えないんだものね。半年の間|熟と目を塞いでいて、お茶屋の二階で目を開いて、ドキドキする胸を圧えるのがその仕儀なんだ。
 一度も夢で泣いたのは……」
 天井を高く仰いで云った、学士の瞳は水のごとし。

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