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 『日本橋』 青空文庫

「どこか……私の寄宿舎の二階と向合う、同じ高さに川が一筋……川が一筋。……で、夢だろう。水はその下を江戸川の(どんどん)ぐらいな流れで通る。向う岸に二階がある。表だけ見えて、欄干が左右へ……真中に榎の大樹があって仕切る、その二階がね、一段低くなって流に臨んで、も一つ高い座敷が裏に有りそうなんだ、夢だからね、お聞き。……いや聞いておくれ。
 その左右の欄干の、向って右へ、嫋娜と掛って、しい片袖が見える。ト頬杖か何か、物思わしい風情で、熟とこっちを視めるらしい、手首が雪のように、ちらりと見えるのに、顔は榎に隠れたんだ。榎はどこか、深山の崖か、遠い駅路の出入境に有る、繁った大な年|経る樹らしい。

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