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 『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む

 待つ事少時して盆で突出した奴を見ると、丼が唯た一つ。腹の空いた悲しさに、姐さん二ぜんと頼んだのだが。と詰るやうに言ふと、へい、二ぜん分、装込んでございますで。いや、相わかりました。何うぞお構ひなく、お引取を、と言ふまでもなし……ついと尻を見せて、すた/\と廊下を行くのを、継児のやうな目つきで見ながら、抱込むばかりに蓋を取ると、成程、二ぜんもり込みだけに汁ぢがぽつちり、饂飩は白く乾いて居た。
 此の旅館が、秋葉山三尺坊が、飯綱権現へ、客をたちものにした処へ打撞つたのであらう、泣くより笑だ。
 その……饂飩二ぜんの昨夜を、むかし弥次郎、喜多八が、夕旅篭の蕎麦二ぜんに思較べた。聊か仰山だが、不思議の縁と言ふのは此で――急に奈良井へ泊つて見たく成つたのである。

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