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 『夜行巡査』 青空文庫

 眼にいっぱいの涙を湛えて、お香はわなわなふるえながら、両袖を耳にあてて、せめて死刑の宣告を聞くまじと勤めたるを、老夫は残酷にも引き放ちて、
「あれ!」と背くる耳に口、
「どうだ、解ったか。なんでも、少しでもおまえが失望の苦痛《くるしみ》をよけいに思い知るようにする。そのうち巡査のことをちっとでも忘れると、それ今夜のように人の婚礼を見せびらかしたり、気の悪くなる談話《はなし》をしたり、あらゆることをして苛めてやる」

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