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『眉かくしの霊』 泉鏡花を読む
いま、午後の三時ごろ、此の時も、更に其の水の音が聞え出したのである。庭の外には小川も流れる。奈良井川の瀬も響く。木曽へ来て、水の音を気にするのは、船に乗つて波を見まいとするやうなものである。望みこそすれ、嫌ひも避けもしないのだけれど、不思議に洗面所の開放しばかり気に成つた。
境は又廊下へ出た。果して、三條とも揃つて――しよろ/\と流れて居る。「旦那さん、お風呂ですか。」手拭を持つて居たのを見て、こゝへ火を直しに、台十能を持つて来かゝつた、お米が声を掛けた。「いや――しかし、もう入れるかい。」
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